残笏居 隅神帖 墨色比較15種

游墨舎が編集制作を担当した『残笏居 墨譜』の著者に、
墨色をテーマに連載原稿を依頼。
春の初めの頃(2023年)、原稿一式を拝受しました。
内容は、15種の墨の墨色の比較。
全15回の連載として、順次、公開していきます(2023年12月に連載完結)。
連載をはじめてお読みいただく方は、冒頭の「はじめに」からどうぞ。
連載の一覧は、こちらへ。

游墨舎が編集制作を担当した『残笏居 墨譜』の著者に、墨色をテーマに連載原稿を依頼。春の初めの頃(2023年)、原稿一式を拝受しました。
内容は、15種の墨の墨色の比較。全15回の連載として、順次、公開していきます(2023年12月に連載完結)。
連載をはじめてお読みいただく方は、冒頭の「はじめに」からどうぞ。連載の一覧は、こちらへ。

はじめに

 以前からしばしば墨色の見本帖というものを作って来た。無論それらは紙ベースで作られているのだが、今回はそれをネット上で広く開示してみようという試み。ただ、モニター画面等を通して見る墨色が、現物と全く同じに見えるのかと言えば、さすがに難しかろう。ご覧頂く方々には、1割なり2割なり割り引いた感じで見て頂くよう、あらかじめご承知おき頂きたい。
 また、言うまでもなく、墨色の判断というものは、一般に思われているほど簡単なものではない。中国ではしばしばものの良し悪しを見分けることが難しい時に、「淄澠を辨ず」などと川の水を飲み分けることに例えてきたが、墨色判断も同じようなもの。なので、今回も帖名はそれにあやかることにする。

【前提条件】
 文房四宝には相性と言うものがある。元来、筆墨硯紙の4つの質を合わせて用いることが本筋なのだが、それだとあまりに複雑なので、今回は筆硯紙を固定し墨だけを変えて墨色を見ることとする。そこで、用いる筆硯紙を先にご紹介しておく。

【筆】浄羊毫 邵芝巌製
 焼き印文字入れのちょっと珍しい邵芝巌の羊毫唐筆。時代的には80~90年代とかそれぐらいのものだろうか。

【硯】松鶴図硯
 おそらく端渓麻子坑石あたりの硯。端渓硯の中では質的に中級といった程度のもの。

【紙】羅紋単宣
 90年代あたりの羅紋宣。用いられた材料が青檀皮に藁を加える割合が多く、棉料連綿と同程度のものかと思われる。それ故、浄皮宣ほど墨の発色が良いものではない。こちらも中国宣紙の中でも中級程度の質のものとして用いる。

【その他】
・墨自体及び磨り口の大きさや硯との相性などもあるため全く同じに磨墨できるわけではないが、一応「の」の字を書くように磨る回数を50回に固定した。
・用いる水は拘ることなく、通常の水道水である。
・試墨作品は仮裏打ちを施している。
・宣紙を用いているので、通常描いた当初から時間を経るほど墨色が変化する。付記しておく。

結語

 墨色の良し悪しを見分けることは、簡単ではない。この隅神帖は、用いる硯や紙を中級程度のものに固定した。そうした段階で、この帖は墨色判断の入門編にしかなり得ない。このレベルが始まりで、古墨の墨色判断ならばさらに硯の質を上げ、紙の質も上げる必要がある。参考までに、12汪節庵の残墨を、端渓老坑大西洞硯で磨り、中華民国あたりの玉版宣に描いたものを掲示しておこう。どんな差があるのか、モニター越しとは言え、真摯に見つめて頂ければと願う。

 しばしば良い墨色とは何かと問われると、私は次のように答えることにしている。

 青いとか茶色いとかの色としてではなく、如何に濁りが無く澄んでいるかを見る。そして、長く見つめていても飽きが来ないかを確かめる。とどのつまり、その墨色が空気を描けているかを問いかけるのだ。

癸卯歳初春 於残笏居 肆石山樵 識

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次