文房四宝だいすき帳 vol.2 イタチ毛の筆も弾力があって書きやすい

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

vol.2 イタチ毛の筆も弾力があって書きやすい

 前回は、書聖・王羲之(おうぎし)が「蘭亭序」を書くときに使ったという鼠鬚筆(そしゅひつ)のことを話題にしました。当時の鼠鬚筆がどんな筆だったかははっきりしていませんが、「蘭亭序」を書くのにふさわしかったと考えると、弾力のある筆だったのではないかと想像することができます。

 ところで、筆の製造で知られる熊野町(広島県)に、戦前、「鼠毛」という名前で中国から送られてくる毛は、イタチの毛だったそうです。イタチは漢字で「鼬」ですが、「鼬鼠」とも書きます。「鼠毛」ということで、イタチの毛を意味する習わしがあったのです(田淵実夫『筆』)。

 イタチ毛として使用されているのは、胴体ではなく尾の毛です。イタチは雄(オス)と雌(メス)で思いのほか体格差があり、ニホンイタチを例にすると、雄は体長が30〜37センチ、尾長は12〜16センチほど。雌は体長が20〜27センチ、尾長は8〜9センチほど。雌の毛質は弱いので、一般的には、もっぱら雄の毛が使用されています。イタチ毛の筆はコシが強く、弾力に富み、耐久性にも優れています。なお、イタチは中国語で「黄鼠狼」「黄狼」「黄狼尾」などとも呼ばれていて、イタチ毛のことを「狼毛」(狼毫)ともいいます。

イタチ毛の筆
イタチ毛の筆は、楷書や細字などに

 またイタチのなかにシベリアイタチ(タイリクイタチ、チョウセンイタチ)という種類があり、これがコリンスキーと呼ばれて、その尾毛が筆の原毛に使用されています。イタチ毛のなかでも最も高級。毛足が長く、しなやかで弾力があり、独特の粘りもあって、鋒先もよくまとまります。

コリンスキー毛の筆
コリンスキー毛の筆も、楷書や細字などに

 ちなみに、イタチとウサギの毛を混ぜて使用している小筆があります。「兎狼圓健」(とろうえんけん)という筆です。兎の毛だけでできた「選毫圓健」という筆もありますが、「兎狼圓健」はイタチ毛の効果もあって鋒先が効いて、鋭い線が書きやすく、細字や写経、宛名書きに重宝します。

イタチとウサギの毛を混ぜた「兎狼圓健」
「兎狼圓健」は細字や写経、宛名書きに最適

(協力・写真提供/栄豊齋)

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栄豊齋(電話 03-3258-9088)

◉参考文献
『世界大百科事典』(改訂新版、平凡社、2007年)
田淵実夫『筆』(ものと人間の文化史30、法政大学出版会、1978年)

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