残笏居 隅神帖 墨色比較15種 03 鉄斎翁書画寶墨 五石漆煙(曹素功堯千)

15種の墨の墨色を比較する連載「残笏居 隅神帖」
今回の墨は、どんな墨色でしょうか?

15種類の墨の墨色を比較する連載「残笏居 隅神帖」。今回の墨は、どんな墨色でしょうか?

03 鉄斎翁書画寶墨 五石漆煙(曹素功堯千)

 1912(大正元、中華民国元)年、富岡鉄斎75歳の長寿を祝い、高島屋を仲介として上海の曹素功堯千へ特注した墨、それが有名な「鉄斎翁書画寶墨」である。題字及び裏面の「国華第一」と桜図ともに鉄斎自ら下絵を描き、墨型は当時の名工・胡国賓が制作している。この鉄斎墨の登場こそが、「五石漆煙」ひいては「油煙一〇一」という墨の名を高からしめたといっていいだろう。今回用いたものは、「油煙一〇一」へと名称を変える前後のものではないかと思う。
 磨墨した際の松鶴硯との相性は、よく合っていて、熱釜塗蝋といった感じになる。
 試筆してみると、相性良く磨れた故か、先の大好山水よりもさらに黒く、また青味を帯びている。まさに「黝黒」という言葉がよく似合っている色だろう。同じ材料を用いたはずである大好山水よりも鉄斎墨の方が日本の書家に好まれてきた理由も、このより「黝黒」にあるのだろう。ただし、肌理に粗さがあり、煤の粒子が粗目であることは大好山水同様。それは、清朝期の古い佳墨とは異なり、少々の濁りと下卑た感じをともなうこともまた同義である。

表面:鉄斎翁書画寶墨
裏面:国華第一 桜図
側面:徽歙曹素功堯千氏
頂辺:五石漆煙
尺寸:81×32×12mm

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