文房四宝だいすき帳 vol.3 剛い毛が独特の表現を生む山馬筆

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

vol.3 剛い毛が独特の表現を生む山馬筆

 筆は、毛の硬さによって、剛毫(ごうごう)、柔毫(じゅうごう)、そして兼毫(けんごう)に分類されます。剛毫は剛(かた)い毛の筆、柔毫は柔(やわ)らかい毛の筆、兼毫は剛い毛(剛毛)と柔らかい毛(柔毛)を混ぜ合わせた筆です。剛い毛の代表例は、山馬(さんば)。山馬の筆は、使用されている毛の本数は少ないですが、毛の一本一本が剛く太くしっかりしていて、コシの強さも抜群です。

山馬筆(51.5mm×7mm)。
かなから画まで、幅広く使用されている。

 山馬筆については、昭和初期の書壇でも愛用されていたという逸話が残っていますが、輸入の原毛を使用する筆だったので、当時は実のところどのような動物の毛なのか、明らかではなかったようです。諸説があるなかで、カモシカ(氈鹿、羚羊)の毛とされていたことも。

 ちなみにカモシカは、鹿が属するシカ科の動物ではなくて、牛や羊や山羊が属するウシ科の動物。それに対して、ややこしいのですが、山馬はシカ科の動物、つまり、鹿の一種です。もう少し具体的に描写すると、三つに分枝した角を持つ大形の鹿。書道の世界では「山馬」として知られていますが、百科事典などでは一般に「サンバー」とカタカナで表記されています。アジアの南部から南東部に広く分布し、森林の水辺近くに棲んで水浴びや泥浴びを好むそうで、別名では水鹿(すいろく)とも。

 山馬の筆は墨をあまり含まず、かすれをいかした線質など独特の表現が生まれて魅力的ですが、「ワシントン条約」(絶滅する恐れのある野生動植物を保護する国際条約。1975年に発効し、日本は1980年に批准)により、山馬の原毛の輸入が禁止され、いまでは、山馬筆はとても希少になっています。

 なお、前回とりあげたコリンスキーの毛と、山馬の毛を配合して作られた筆もあります。下の写真の筆は、筆の腹毛に山馬、芯毛にコリンスキー、上毛に馬を使用。山馬と山馬以外の毛の特長が組み合わさって、鋒先がよく利き、バランスのよい筆になっています。

左は「かをり 貢品 小」(27mm×4mm)、右は「かをり 貢品 大」(30mm×5mm)。
いずれも奈良・一心堂製(榎倉香邨選定筆)。小はかなや細字に、大はかな条幅等に最適。

(協力・写真提供/栄豊齋)

◉商品のお問い合わせ
栄豊齋(電話 03-3258-9088)

◉参考文献
宇野雪村『文房古玩事典』(普及版、柏書房、1993年)
田淵実夫『筆』(ものと人間の文化史30、法政大学出版会、1978年)

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