墨輪九州交友展
~墨輪会と九州で書を愛する人たちの展覧会~
会期 2024年11月12日~17日
会場 大分市荷揚町・アートプラザ2階アートホール
毎日展系の中堅・若手書家が集う墨輪会(棧敷東煌代表)が2024(令和6)年の秋、大分市で九州在住の若手書家と共同して、表題の書道展を開催した。おりしも、第75回毎日書道展九州展(大分県立美術館)も同市内で開催中とあって、地元の書道ファンのみならず広く一般市民にも現代書の魅力を訴えるという初期の目的は、ある程度達成できたのではないだろうか。
出品作家は、墨輪会が23人、地元九州の書家が29人の計52人。作品は全紙2分の1程度と、サイズ的には大きくはないが、室内に林立する数メートルの白壁に3、4点ずつ展示して、作品を1点1点じっくり鑑賞できる環境にしていたのはよかった。
個別に作品を観てみると、「シリーズ 新しい風 vol.1」で紹介した金子大蔵は、好きな作家のひとりという島崎藤村の「暁の誕生」の一文を、大小のアクセントをつけた字粒と筆線の変化を用いて流れるように書いている。墨輪会の活動をはじめ、自らの書への思いを「せめて芸術を恋ひ慕ふ」というフレーズに託したようにみえた。
同じく「新しい風 vol.3」紹介の川本大幽は、いろは歌を朱墨でさらりと4行書きにまとめてみせた。単字で連綿や散らしはないものの、右下への流れを作り、どこかかな作品のようなたおやかな雰囲気を漂わせている。1点出品の展覧会では得意分野の書体で真向勝負する書人も多いが、川本は柔らかな変化球で存在感を出した。
このほか、同会代表の棧敷東煌は、渡辺水巴の俳句「十六夜の寒さや……」を奇をてらわず手堅くまとめた。漢字では、水川芳竹が漢詩を4行ものの行草で、行の乱れなく書きおろして見せた。佐藤義之は淡墨で「天如水」の3文字。この人、やはり中字が得手のようだ。刻字の安藤尤京の「宿慮明定」は、鮮やかな青色を使い篆書を際立たせていた。
さて、作品はすべて墨輪会のホームページで鑑賞できるので、そちらをご覧いただくとして、ここで墨輪会の生い立ちに触れておきたい。同会は2006 年、「会派にとらわれない同世代の仲間による書展を開こう」という思いで結成されたという。08年から今回までに計7回の展覧会を開いたが、第1回は「イマしかできないこと」と銘打って、普段はなかなか取り組めない大作展を開いた。
2回目は「イマ、を超える」、3回目は「イマ、この場所が新時代」と題して、各自の作品展開以外に間伐材の再生紙を使った小品展で環境問題にも取り組んだ。4回目も間伐材を利用したが、「今の自分に挑戦、そして未来へ」の題で、出品メンバーの競作という色合いを濃くしていたように記憶する。
そして、グループ展として一区切りをつけるという位置づけで、2016年に第5回展を「縁(えにし) それが私たちの原点」というタイトルで、東京・池袋を舞台ににぎやかに開催した。大作展に加えて、展覧会外でうちわなどを作る体験コーナーや席上揮毫の披露など多彩な企画を展開した。書に縁遠い一般市民をひとりでも多く呼び込んで、書道文化への理解や普及を図ろうという趣旨である。
有志による活動はこの後も続く。2018年、東京・汐留の住宅ショールームとコラボして、リビングルームなど室内向けに書作品の利用を勧める小品展を開いた。年末には池袋の商業ビルとタイアップして、席上揮毫や高校生の書道パフォーマンス、さらにカレンダーやはがき作品の制作コーナーを設けた。2019年のワールドカップラグビーの折には、新横浜駅で来日外国人を狙って書道体験ブースも開いている。
こうした過去の活動の集大成として大型展覧会が復活する。2023年正月、東京・銀座に有志17人が集い、実に15会場をつかって「同時個展―銀座に舞う墨の華―」を開催した。毎日書道会主催の「現代の書 新春展」開催に合わせた大型イベントで、新春の銀座周辺を現代書一色に染め上げた。戦後、書の大衆化に努めてきた書壇にとっては意義ある企画と位置づけられるのではないか。
そして今回、地方に打って出た大分交友展。一連の活動の軌跡から気付かされるのは、墨輪会の志向するところは、まずはメンバーの制作意欲の活性化と作品水準の向上が第1目標にあり、2番目として一般市民や外国人との書の接触機会を増やして普及、理解を深めようとすること、そして最後に環境保護やチャリティーなど社会問題にも目を向けようということだ。
書壇を取り巻く環境は厳しさを増しており、書家たちはともすれば書道芸術の世界だけに目を向けがちだが、墨輪会には、書作に限らず、まだまだ切磋琢磨、奮励努力を期待したい。そう思うのは私だけだろうか。
◉墨輪会ホームページ
https://bokurinshodo.wixsite.com/bokurinkai/
◉出品者
【墨輪会】安藤尤京 市川智美 岩壁聖濤 大八木耕一 金子大蔵 川本大幽 齊藤恭平 櫻本太志 棧敷東煌 佐藤義之 田鶴崖 中澤京苑 根本爽穂 野口泰雲 日向伯周 福本泰子 松尾鴻 水川芳竹 宮崎淳史 森桂山 山田光霧 渡瀬英仁 渡辺一夢
【九州書家】秋永春霞 阿部優生 荒金治 荒金申子 荒金和佳子 衞藤薫光 岡由香里 片山紫氈 螻川内智照 河野茜袖 河野麗霞 坂元紫香 笹倉淳 浄念舞光 菅歩加 豊田潮路 幡手翠葉 花田豊園 東山蘭西 樋口了盦 兵頭白慧 福島杷那子 藤本篤 前田優乃 舛添木菴 馬見塚淳 宮川桃 森田裕美 脇谷紫音
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