07 鉄斎翁書画寶墨(上海墨厰)
誕生以来日本で人気を博した鉄斎墨は、中国の外貨獲得に大いに貢献した。そして大きなものや小さなものなど、サイズ違いのものも作られた。ここに用いたものは、赤錦の紙箱入りの小型のもの。頂辺が磨墨されていて「五石漆煙」か「油煙一〇一」か不明。風貌は70年代の「国華第一」無しの製品に倣っているが、時代がやや下り80年代か90年代初頭ぐらいのものだろう。
磨墨した際の松鶴硯との相性は、前所有者が斜めに磨ってあり、接地する面積が小さいこともあるのか、あまり良い磨り味ではない。
試筆してみると、一見してわかるように、かつての五石漆煙のように黒々とはしていない。少し肌理の荒々しさが抑えられている分、黒さは無いがやや冴えた感覚がする。おそらく採煤方法の近代化によって煤自体がかつてのように粗いものが散在しなくなった故ではなかろうか。あるいは、もっと質の劣る硯で粗く濃く磨れば、かつての五石漆煙の発色に近づくものか?
表面:鉄斎翁書画寶墨
裏面:桜図
側面:上海墨厰出品
尺寸:68×23×10mm