01 雨亭清賞(倣古墨)
古墨の難しいところは、墨自体が潰えても後々まで木型だけが残る場合が多く、それを用いて形だけそっくりの倣古墨が後世に作られていることだろう。そんな倣古墨は、いつの時代も存在するし、善意悪意に関わらず、概ね本家とは質が大いに異なる。今回用いたものは、明確ではないが、おそらく10年や20年は前に盛んに明墨や御墨の木型を使って粗製乱造されたものの端くれではなかろうか。
磨墨した際の松鶴硯との相性は、磨っている段階で粉っぽくて、あまり良いものではない。
試筆してみると、黒味は強くでるも肌理が非常に粗くやはり粉っぽい。およそ煤の粒子の段階で極めて粗いのだろう、滲みが徐々に薄まり美しく広がるようなところがなく、黒く留まるところと薄く広がるところとが2分割される。また、粒子が粗い故か、紙の繊維の奥へ入っていくことも少なく、紙面上に平坦に止まり線質に立体感が乏しい。長く見つめていると、黒いとは言え安っぽく濁って陳腐、淡墨にしても下品に映る。
古の文人たちは、こんな劣悪な墨なぞ使うことはないはずなのだが、現在の一部の書画家が「古墨調」などと称し、この手の粉々墨を持て囃す風潮があるのは滑稽だ。まっとうな審美眼というものを持っていれば、この手の墨色が美しいなどと思えるはずがないのだが、あるいは、安易に他人さまとは違う奇をてらった受け狙いなのか? 美に携る者ならば、厳に戒めるべきものだろう。
表面:雨亭清賞 光緒丁丑年桂月日潯陽鄴矦氏養軒定製
裏面:西湖景 山水図
尺寸:83×19×10mm