小林琴水書展
会期 2023年7月20日〜23日
会場 東京・セントラルミュージアム銀座
関西で大字書を中心に活躍する小林琴水が喜寿を迎えて銀座で個展を開いた。
会場には大字書、詩文書など大作が計22点並ぶ。中央に濃墨の横書き「感激」。直ぐ側に淡墨で縦書き「喜寿」とある。そして入口の目立つ場所には「今やらねばいつできる」のサブタイトルを記した詩文書。個展への思いがストレートに表現されている。
聞けば、今年1月に思い立ち、わずか3カ月で一気に書き上げたという。練りに練った構成というより、情念がほとばしるような筆運びや会場展開となっていたのは短期集中の結果だろう。1作1作を短時間で書き上げる大字書ならではの特長がはっきり現れていた。
何故、急いだのか。それには理由がある。小林は毎日書道展の大字書部門で業績を重ねた書道芸術院の恩地春洋のもとで学んだ。その恩地から10年ほど前「古希で個展を開け。もう、わしも居なくなるぞ」と勧められたという。
その師のアドバイスに小林は直ぐには応えられなかった。すると、恩地は自らの死期を悟ったかのように「捨」をテーマにした印象深い個展を開き、急逝した。小林は頼りにしていた師匠を突然失ってしまった。
師を突然失ったのは初めてではない。小林は大阪の高校生時代には、土佐出身の川崎白雲(梅村)に書の基礎を学んでいた。しかし、川崎は既存の書壇に別れを告げ、突然全国行脚に出たのである。そこで小林は、その右腕だったやはり土佐出身の恩地春洋についていた。
師を突然失うこと2回。小林は恵まれた書道人生に甘んじていたと気付いたのではないだろうか。コロナ明けを待って、ようやく個展開催にこぎつけた。その作品は当然、恩地直伝の大字書となった。筆運びで時おり旋回運動を活かすのが、小林作品のひとつの特徴といえそうだ。
今回の大字書では主流の草書体で表現していたが、字体に変化をつけたり、墨色も変えるなど亡き師の期待に応えられるように工夫を重ねたそうだ。2字の横書き作品で右書きと左書きが混在するのは、やはり情念、感覚優先ということか。少し気にはなるが、それも小林流ということか。
会場入口に恩地の遺墨「界」を展示して師への思いを記していたのも、小林流の情念の表れと思った。
(書道ジャーナリスト・西村修一)
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