書は命 大井錦亭
会期 2023年5月2日~7日
会場 セントラルミュージアム銀座
近代詩文書の父、金子鷗亭らについて詩文書、漢字を究め、東北人らしい一徹な書風を確立した大井錦亭の遺墨展が没後2年余りの時を経て、東京銀座で開催された。
大井は1927年、秋田市生まれ。若い頃北海道で渡辺緑邦に漢字を学び、東京に転じて金子の下、近代詩文書の修練を重ねた。日展、毎日書道展、創玄書道会を主な舞台に、99年に毎日展文部科学大臣賞、2002年に毎日芸術賞と羨まれる速さで階段を登り詰めた。
遺墨展では、高弟が吟味した100点余りが展示された。様々な和漢の古典臨書、師風を感じさせる近代詩文書、どっしり落ち着いた漢字作品に大別される。分野は異なるが、会場を一覧すると通底する特徴が感じられた。
それは文字の骨格、全体の構図に揺らぎがないことだ。大井の臨書、日々の書き込みへの拘りは頑固といえるほどだったが、それに加えて、金子のもと三省堂で活字デザインの仕事に取り組むという経験を積んだことが大きかったのではないか。このフォント作りが、文字に骨力をつけたとみる。どの作品の字形にも安定感が漂っている。
もう一つ、撰文への拘りも目立った。古典も詩文書も、多くは昨今の書作で定番ではない著作から、意外な文章、言葉を丹念に選んでいるという印象が強い。一作一面貌の拘りである。こうして多彩で華やかで柔らかだった師金子とは一味違う、一途な書風が完成したのだと思う。
80代を迎えたとき、大井は「これからは初心に戻って5年間古典を臨書して個展を開き、その後はまた5年間別の古典臨書をして個展を開く。書に完成はなく、未完の旅を続ける」。こう語っていたが、残念ながら20年12月急逝した。もう少し、新たな展開を見せてもらいたかったと思うのは私だけだろうか。
(書道ジャーナリスト・西村修一)
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