西村修一のShodo見て歩き vol.19 星野聖山古稀書展──赴くままに──

星野聖山古稀書展──赴くままに──
会期 2026年3月26日~29日
会場 セントラルミュージアム銀座

「赤城山」(自詠)
3×6尺

 星野聖山の古稀書展の会場に入ると、まず詩文書形式で「赤城山」、「妙義山」。その間に挟まれるようにして、上毛かるたの一句「鶴舞う形の群馬県」が目に入る。そして群馬・高崎所縁の内村鑑三が同県人の特性を七言絶句で巧みに描いた詩文「上州人」の隷書作品とくる。まずは上州限定の書作展かと見紛うばかりのお出迎えだった。
 自らの出身地を、こうした力強い筆致の作品群でまず表し、礼賛して見せる星野は、裏表のない明るい性格といわれる上州人気質をしっかりと体現しているとも思えた。会場構成にも、飾らない真っ直ぐな制作姿勢が見て取れた。

「妙義山」(大和田建樹の詩)
3×8尺
「上州人」(内村鑑三詩)
2×8尺×4

 続く中間ゾーンでは、楷書、行書、草書、篆書、隷書に加えて、漢字かな交じりの詩文書まで6体の作品をしっかりと書き分け、披露していた。例えば行草では、杜甫の「飲中八仙歌」を流れるような運筆によって、行間の余白と響き合うような洗練された姿形に書き下ろしている。また、「范成大句」や「王維詩」などでは、ときに強く、ときに軽やかにと、自在な筆さばきで、行草の修練が一朝一夕ではないことを示していた。

「王維詩(2首)」
2×8尺×2

 さらに顔真卿、鄭道昭の臨書も展示され、整った字姿の楷書が目を引いた。篆隷では内村鑑三作品以外にも、破筆、渇筆なども駆使した作品で見せ場を作り、特に好んで書いたという帛書風の作品は、近年の書展では少数派ともいえるだけに、一種独特の存在感を醸し出していた。

「范成大句」
2×8尺×2
「蘇東坡句」
2×6尺

 一方、詩文書では、例えば金子光晴の「出帆の銅鑼」で力感あふれるダイナミックな線描の作品作りにも挑戦していた。繊細な行草とは対極のようにも思えるが、ここらあたりが古稀を迎えての新境地なのかもしれない。星野はこの中間ゾーンで、杜甫の「春望」を金文、楚簡、隷書、楷書、行草、詩文書の6体でサブタイトル通り、「赴くままに」記した6連の大作を配していた。

「金子光晴の詩(出帆の銅鑼)」
全紙

 そして、最終コーナーの壁面に星野が並べたのが、金文や帛書を思わせる8連の「列子」、落ち着いた行草で認めた杜甫詩の4連幅、そして蘇東坡の詩を整った楷書で修めた9連幅の大作だった。どれをとっても、印象深い作品で、中間ゾーンでの多種多様な様相がここに極まった感があった。

「石川啄木の歌(3首)」
2×8尺
 もちろん、こうした目まぐるしい書体の転換に、星野の書の本籍地は一体どこなのか、という疑問も湧いてくる。その答えは、星野の経歴から導き出せるのだろう。成人になる頃までは、絵描きになりたいとデッサン教室にまで通っていた星野青年だが、慶応義塾大学(文学部)で書道史などを学ぶうちに、当時の日展で行草の名手、明石春浦の特選作品を目にして、一目ぼれした。絵から書へ道を定めることになった。伝手をたどって明石に弟子入りし、以後15年間ほど厳しい修行を重ね、後に独立したという。
 この間、慶大では碩学、西川寧門下の高橋正彦の授業で、中国の書体の成立と発展などを学び、それぞれの書体には造形的な面白さが詰まっていることにも気付かされた。こうして書道史の研究を続けているうち、さらに慶大で西川、伊藤伸が担当していた書学論の授業を受け継ぐという良い機会に恵まれた。
 以来、30年近く。退官するまで学生に漢字変遷の歴史を講じるうちに、「それを実作に生かしてみたい」と思うようになったそうだ。今回、自らの書道人生の節目で、あらゆる書体の作品を披歴した背景には、若き日に身に付けたデッサン力を含めて、こうした事情がある。ただし、同じ書体でも題材に変化をつけ、書風も異なるように腐心した。敬愛する先人たちの言葉にもある「一作一面貌」に徹したいからだった。
一作一面貌に徹した作品群

 さて、古稀を迎えた星野は、これからの進路をどうするのか。その予兆は今回展の基本的な姿勢に隠されている。学んできた書学、鍛えてきた書法、その蓄積と力を現代の書作に活かすという方向性である。例えば、漢字かな交じりという詩文書に取り組み、筆意の強さを古典の造形の枠を超えた形で表現することに挑んでいる。こうした試みを今後さらにどう発展、具現化していくのか。筆者のみならず、気になるところではないだろうか。

(書道ジャーナリスト 西村修一)

星野聖山(ほしのせいざん)
1955年 群馬県生まれ
1992年 慶応義塾大学講師(~2020年)
2010年 第61回毎日書道展会員賞受賞
2011年 毎日書道展審査会員昇格
2025年 群馬県総合表彰(文化部門)

(一財)毎日書道会評議員、(一社)群馬県書道協会副会長、一瀾書道会理事長、聖心書会代表、書道研究聖筆会会長

◉書道研究聖筆会ホームページ https://www.seihitsukai.com/

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