西村修一のShodo見て歩き vol.17 第30回長野県現代書藝全国展

第30回長野県現代書藝全国展
会期 2025年11月29〜30日
会場 長野県伊那市・伊那文化会館

手慣れた行草作品が並び、実力の高さをうかがわせる

 長野県で、地方では珍しい全国を対象にした「書の総合展」が継続して開かれている。2025(令和7)年で30回を数えたというから、すっかり書の世界で定着している公募展といえるのではないだろうか。節目の今回には全国から約1200点もの応募があった。長野県からの出品が多いのは当然として、東北圏、千葉、大阪、広島といった地域からの出品も多く、表彰式にも遠路はるばる出席する様子は、さすが30年の歴史を感じさせるものであった。

前衛書の応募も多く、表現の幅の広い展観

 この現代書藝展(主催・長野県現代書藝協会)は、かねて伝統書が盛んな長野県で、詩文書や少字数書、前衛書など戦後急速に発展し始めた現代書も地元で急ぎ普及発展させようと、少字数書の小浜大明らが中心となって創設した。漢字、かな、さらには詩文書、篆刻、少字数書、刻字、前衛書までを網羅する、地方では珍しい全国規模の手作り公募総合展だ。

小中学生の半紙作品のコーナー

 運営にあたって、審査も地方の眼に偏らず、全国水準のできるだけ普遍的な評価が得られるように、当初から美術評論家の田宮文平に単独審査を依頼したり、陳列も児童、学生まで見やすく配置するなど、様々な点で腐心の跡が見られる。

文部科学大臣賞 「風の翼」 太田蓮紅(宮城)

 最高賞の文部科学大臣賞には前衛書の太田蓮紅(宮城)が選ばれた。「風の翼」というタイトル通り、渇筆を生かしながら、浮揚感のある造形で、タイトル通りの爽やかな印象を残す作品となっている。

協会賞 「雲」 前浜裕香(大阪府)

 今回、審査会員を対象とした文部科学大臣賞、田宮文平賞、協会賞の単独審査にあたった太田文子(游墨舎)は「前衛書は歴史を経て、表現のパターン化が進んでいる。その中で新しい表現を試み、詩情あふれる伸びやかな世界を作り上げることに成功している」と評している。受賞した太田蓮紅も「前衛書の道に導かれ、喜怒哀楽を共にしながら、今に至っています。心に問われたことを素材とし、今後も自己表現をし続けてゆきたいと望んでいます」とこたえていた。

刻字作品も充実

 さて、書の分野を広げる現代書の普及もさることながら、書壇ではいま、少子高齢化の大波を受けて、すそ野の拡大も大きな課題となっている。そこで30回の節目に、同展でも新しい企画事業を考えた。それは、入場者にお気に入りの作品を選んでもらい、投票で最優秀賞を決める自由作品部門の新設だった。こちらは墨を使うという条件だけで、105点の応募があり、最優秀賞には書道学習の奨励金を授与するとともに、今回は1人1点の展示であったが来年の同展では全応募作品を展示して、関心を高めてもらうという。

自由作品部門の展示

 長野の書人たちのこうした地道な取り組みには頭が下がる思いだ。近い将来、そこここに大輪の花が咲くことを願うばかりだ。

(書道ジャーナリスト 西村修一)

◉第30回長野県現代書藝全国展 https://naganosyogei.jp/?page_id=2970

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