北川博邦(きたがわ・ひろくに)
昭和14(1939)年生まれ。國學院大學大学院博士課程日本史学専攻修了。文部省初等中等教育局教科書調査官(国語科書写・芸術科書道担当)を経て、國學院大學教授を務める。日本篆刻社を創弁し『篆刻』雑誌を編輯刊行。
編著に『清人篆隷字彙』(雄山閣出版、1978年)、『日本名跡大字典』(角川書店、1981年)、『和様字典』(二玄社、1988年)、『日本上代金石文字典』(雄山閣出版、1991年)、『章草大字典』(雄山閣出版、1994年)、『モノを言う落款』(二玄社、2008年)など。
第14回 離合と謎語(一)
前回(第11回)は徐渭の田水月という、離合と言えば離合にはちがいないが、なんとも間の抜けた見當外れの語のために、話があらぬ方に行ってしまった。そこで話を少しもとにもどすことにしよう。
離合は、魯國孔融文擧(第10回参照)、魏伯陽の魏伯陽哥(第8回参照)の後、南朝の詩人が好んで離合詩を作っており、それぞれ巧思を凝らしているが、凝っては思案に能わず、さほどオモシロオカシイ者は見られない。
そもそも離合とは圖讖より出でたる者であり、隱語の一種である。隱語とは「かくしことば」であり、また廋詞「かくしことば」とも言い、讔・謎とも言い、拆字・破字・別字など、みな一類の者である。
後に離合は字謎に多く用いられるようになった。そこで今はその途中の事は省略して、謎語に用いられた例をいくつか擧げてみよう。
離合體の詩謎は、唐代より多く見られるようになる。これらの中、曹娥碑陰、大明寺壁、東坡硯蓋などがよく知られた者として擧げられている。
曹娥碑陰とは、「黄絹幼婦、外孫韲臼」で、「絶妙好辤」のことである。
(次回に続く)