墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。
墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。
vol.5 多くの書家が愛用する羊毛の筆
今回、取り上げたいのは、羊毛の筆。羊毛筆の原毛は、羊の毛ではなく、山羊の毛です。それももっぱら中国産の山羊の毛で、日本製の羊毛筆の場合も、原毛は中国から輸入されています。
山羊の毛は、他の動物の毛と比べても集合力があり、墨含みもよく、筆毛として最適といわれています。そして、「柔毫といえば羊毛」といってよいくらいに、羊毛(山羊の毛)は柔らかい毛の代表的な存在です。特に純羊毛の筆は、初心者にとっては扱いが難しく、書きづらいと感じるかもしれませんが、多くの書家や中上級者の方々に愛用されています。
羊毛も馬毛と同じように、体の部位によって毛の形や毛の質に違いがあり、さまざまな呼び名があります。なかでも細くてしなやかな最優良の毛を「細光鋒」(さいこうほう)といい、さらに厳選された最高級な毛を「細嫩光鋒」(さいどんこうほう)、「細微光鋒」(さいびこうほう)といいます。
また羊毛は、若い山羊の新しい毛よりも、老いた山羊の毛や寝かせた毛などの古い毛のほうが腰があってよいとされ、古い毛を使用した羊毛筆には、そのことを示すために「宿」という字が入っていることも。
羊毛は、寿命(耐久性)にも優れています。書き終えた後はよく洗って、よく乾かすなど、お手入れをしっかりと。──羊毛筆の寿命については、こんなエピソードも。19世紀から20世紀の半ば頃まで、中国・北京の瑠璃廠(るりしょう、リウリーチャン)で、ささやかな店舗を構えてすぐれた羊毛筆を作っていた名筆匠・賀蓮青(がれんせい)は、同じ種類の羊毛筆を何本も注文しようとしても、一生使えるからと言って一本しか売らなかったそうです。
(協力・写真提供/栄豊齋)
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◉参考文献
宇野雪村『文房古玩事典』(普及版、柏書房、1993年)
田淵実夫『筆』(ものと人間の文化史30、法政大学出版会、1978年)