文房四宝だいすき帳 vol.8 唐筆で書いてみよう

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

vol.8 唐筆で書いてみよう

 唐筆とは、もちろん、中国の筆のこと。日本と中国では筆の製造方法に違いがあり、近年は日本の技術を導入して中国で製造された筆もありますが、やはり、中国の製造方法で作られた中国製の筆こそが、唐筆と呼ばれるにふさわしい筆ということになるのではないでしょうか。

 「陳象九」「賀蓮青」「徐葆三」など、清末以降に知られた筆匠は何人もいますが、大正から昭和の初期には、特に「李鼎和」や「老文元」、次いで「戴月軒」といった筆匠の筆が多く輸入されていたようです。その後、戦後になり、また文化大革命があり、筆匠の名が姿を消して、「上海工藝」などの名の下に合併・集約されていきました。現在は、「上海工藝」「善璉湖筆」(浙江省湖州市)、「武林邵芝巌」(浙江省杭州市)、「蘇州湖筆」(江蘇省蘇州市)などが知られています。

 下(写真)に唐筆の小筆を並べてみましたので、ご紹介しましょう。

左から、「選亳圓健」(5.5mm×25mm)、「写巻」(5.5mm×25mm)、
「双料写巻」(6.5mm×26mm)、「下筆春蚕食叶声」(6.5mm×25mm)、
「漢璧」(7.5mm×29mm)、「特製 大七紫三羊毫」(7mm×28mm)。
鋭い鋒先が並ぶ。
「漢璧」は上海工藝製、ほかは武林邵芝巌製。

 ①〜④は、いずれも鋒先は兎毛、周りは羊毛で作られた筆。①「選毫圓健」は鋭い線が書けるので、宛名書き、賞状書き、そして写経から仮名まで幅広く使用できます。②「写巻」は鋒先が利くので、初心者の方でも使いやすく、写経などに向いています。③「双料写巻」は「写巻」よりもひとまわり大きく、黒兎の毛に弾力があり、鋭い線を書くことができます。④「下筆春蚕食叶声」も「写巻」よりもひとまわり大きく、写経や手紙、宛名書きなどに多く使われます。なお、「叶」は「葉」を意味し、揮毫するときに鋒先が紙と触れ合うサラサラとした音が、蚕が桑の葉を食べる音に似ているので、このように名づけられたそうです。

 ⑤「漢璧」は羊毛のみで作られた筆で、柔らかい表情の線質で小作品を書きたいときなどにおすすめ。⑥「特製 大七紫三羊毫」は鋒先は兎毛で、周りは羊毛。賞状書きや宛名書きに最適です。なお、以前の回で説明したことがありますが、「七紫三羊」は兎毛(紫毫)と羊毛の割合を意味しています。つまり、「七紫三羊」の場合は、兎毛が7割で、羊毛が3割です。

 そしてもちろん、唐筆にも中筆や大筆があります。下(写真)の「加料條幅」は中筆程度の大きさですが、筆の名称に「條幅」(条幅)とあるように、半紙から条幅まで多字数を書くときに重宝します。

上海工藝製の「加料條幅」(8.5mm×39mm)。
腰のある羊毛を使用していて、書きやすい。
半切の場合は、3〜4行書きなどに。

 

(協力・写真提供/栄豊齋)

◉商品のお問い合わせ
栄豊齋(電話 03-3258-9088)

◉参考文献
宇野雪村『文房古玩事典』(普及版、柏書房、1993年)
『筆墨硯紙事典』(天来書院編、天来書院、2009年)

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