永守蒼穹書展 師恩 光と風
会期 2026年7月16日~26日
会場 セイコーハウスホール

いまや詩文書の代表的作家の一人といえる永守蒼穹が、セイコーハウスホール(東京・銀座)で2回目の個展を開いた。早速訪うと、硬軟自在の詩文書ワールドが眼前に広がっていた。今回の作品はこの個展に向け一気に書き下ろしたもの。
会場中央の壁面では、縦1.36m、横2.8mの大作「CYNARA(シナーラ)の風」が鑑賞者を迎える。この作品、英国で1927年に建造され、「海の貴婦人」と呼ばれた名帆船の物語。廃船寸前の朽ちたシナーラを、書友の日本人実業家が7年がかりで修復し、来年の建造100年を前に、一緒に試乗した体験を謡っている。
紙面上部に「CYNARA」と、ヨットが湘南の海を滑るように軽やかに書かれ、下部の小書きでは、時に潮風のように、時に波しぶきのように、物語が航跡のように後方へ流れて行く。全体に細めの書線で、渇筆や破筆も織り交ぜながら、疾走感を感じさせてくれる。船上の情景、風切り音が頭に浮かぶ。音楽に例えると、軽快なワルツとでもいえようか。

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シナーラの左側には、やはり自作で「弓射る与一」。源平合戦など時代ものをよくする永守だが、那須与一が船上の扇を射落とす名場面を濃墨の力強い線でグイグイと書き立てている。ことに「弓射る与一」の5文字は、筆者には2拍子のリズムが感じられた。

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一方、右側には与謝野鉄幹の「行く春」が佇む。永守のもう一つのテーマは、近現代の詩や歌。字粒の大きさ、墨の濃淡などの変化は抑えて淡々と。しかし、明瞭に書き進めていく。鑑賞者が口ずさめるような穏やかな展開で、これは音楽にすれば4拍子の作品のように感じた。

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会場には、こうしたライフワーク的な題材が散りばめられ、詩歌はおおむね柔らかい線で情感溢れるように、他方で時代ものは比較的強い線質で迫力を前面に出すように構成され、鑑賞者の共感を得やすい空間が創出されていた。「物語に感動した気持ちの高まりを、書で伝えたい」。こう語る永守蒼穹の詩文書ワールドは完成の域に近づいているのではないか、と思えた。

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さて、サブタイトルの「光と風」には触れたが、「師恩」にも紙幅を割かせてもらおう。永守は個展の直後、2度目の大地震に襲われた熊本県南部の生まれ。県の歌を作品にしたり、地元出身の力士に励ましの額を贈るなど郷土愛が強い、いわゆる九州男児の系統に映る。
その永守は、子供のころから父親に書の手ほどきを受け、大東文化大学に進んだのは自然の流れだったという。体調を崩すなどして、いったんは書家への道を閉ざしかけたが、大学卒業後、金子鷗亭が開いた特別研究会に参加して、急転した。古法帖への接し方、現代書の魅力など、鷗亭の教えに導かれて書作の大いなる魅力に引き込まれたという。

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さらに師を選ぶにあたって義父の勧めで、鷗亭の子息、金子卓義の門を叩くことになった。卓義のもとでは、際限なく臨書を続け、師のいう「線の円(まる)み」を得るのに7、8年はかかったとか。しかも、そう飲める方ではないのに「飲まずば去れ」としごかれた。このころ、楽しくもあり、苦しくもあったようだが、今に生きる薫陶を受けている。

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曰く、「師に似るな」「古典を師とせよ」。また「線は温かい方がいい」「表現は素朴な方がいい」とも。詩文書にしろ、漢字にしろ、「好言の書を旨とすべし」。こうした師の教えの数々は、永守の胸中では「心の琴線に触れた題材に取り組み、じっくりと想を練り、気が満ちるのを待って、筆をとる」という制作スタイルに集大成されている。

「踊る女」
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永守は今後について「自分の書をさらに良くしていく。身体がいうことをきく間は、豊かなものを書いていきたい」と語る。それは同時に、師の思いでもあった「現代美術としての書の確立」ということでもある。
(書道ジャーナリスト 西村修一)
永守蒼穹(ながもり・そうきゅう)
1950年 熊本県宇土市生まれ
1973年 大東文化大学卒
2003・08年 日展特選受賞
2011年 毎日書道展文部科学大臣賞受賞
2017年 日展会員賞受賞
2020年 日展内閣総理大臣賞受賞
2022年 日本芸術院賞受賞
(公社)日展特別会員、(一財)毎日書道会理事、(公社)全日本書道連盟副理事長、(公社)創玄書道会理事長、洪原社主宰

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