高校の書道教育の現在 第1回 高等学校の書道教育が目指しているもの

現在の高校では、どのような書道教育が行われているのでしょうか。
授業では? 課外活動では? 他教科との連携? 地域との連携?
複数の執筆者によるリレー連載の形式により、

「高校の書道教育の現在」を浮き彫りにしていきます

現在の高校では、どのような書道教育が行われているのでしょうか。授業では? 課外活動では? 他教科との連携? 地域との連携? 複数の執筆者によるリレー連載の形式により、「高校の書道教育の現在」を浮き彫りに。

さて、今回は、連載初回の第1回
まずは、高校の書道教育にどのような目標が設定されているのか、
「学習指導要領」をひもときながら、確認をしていきます。

さて、今回は、連載初回の第1回。まずは、高校の書道教育にどのような目標が設定されているのか、「学習指導要領」をひもときながら、確認をしていきます。

第1回 高等学校の書道教育が目指しているもの

文/草津祐介(東京学芸大学准教授)

 日本の高等学校で書道の授業が実施されているのはご存じの方が多いのではないでしょうか。正確には、芸術科という教科の中に書道Ⅰ、書道Ⅱ、書道Ⅲという科目が選択科目として開講できることになっています。高等学校を卒業するためには、音楽か美術か工芸か書道のいずれかの2単位をとる必要があることになっており、選択必修科目として書道Ⅰが位置付けられているといえます。したがって、小中学校の国語科書写とは違い、芸術科書道はすべての高校生が履修するわけではありません。
 では、現在、高等学校では書道の授業はどのようにおこなわれているのでしょうか。今回はまず最初に、高等学校の書道が何を目指しているのか、ということを説明したいと思います。

 書道塾(書道教室、習字教室……、いろいろな呼び方があると思いますが、ここでは書道塾ということで統一して使っていきたいと思います)では、「上手に文字を書けるようになる」「美しい文字が書けるようになる」「達筆に書けるようになる」──表現は違うと思いますが、こういった目標で教育がなされることが多いかと思います。いわば、技能の修得に力点がおかれるといえるのではないでしょうか。また、週何回、月何回という制限はあるかもしれませんが、自分で辞めると決めない限りは習い続けることができるというのが特徴かと思います。
 一方、高等学校の書道は(書道だけではありませんが)、授業回数が決まっており、授業における取り組みを、評価する=成績をつけていく必要があります。また、文部科学大臣が教育課程の基準として示した「学習指導要領」というものがあり、高等学校の書道についても目標等が掲載されています。

 まず、この「学習指導要領」にある芸術科の目標を見てみたいと思います。『高等学校学習指導要領(平成30年告示)』には以下のように芸術科の目標が示されています(141ページ)。

 芸術の幅広い活動を通して、各科目における見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の芸術や芸術文化と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)芸術に関する各科目の特質について理解するとともに、意図に基づいて表現するための技能を身に付けるようにする。
(2)創造的な表現を工夫したり、芸術のよさや美しさを深く味わったりすることができるようにする。
(3)生涯にわたり芸術を愛好する心情を育むとともに、感性を高め、心豊かな生活や社会を創造していく態度を養い、豊かな情操を培う。

 つまり、芸術科は生涯にわたって芸術を愛する心情を育て、感性を高め、豊かな情操を養う心の教育に関わる教科であり、芸術科の学びを通して、芸術的な見方・考え方により物事を捉えられるようにし、芸術科の授業を学んだ生徒が、社会や生活の中にある様々な美と豊かに関わっていくことを目指しています。
 「見方・考え方」というのが他の校種、教科でも言われている重要なキーワードであり、教科の学びを通して様々な「見方・考え方」を働かせられるようにしたい、というのが現在の学校教育に共通する観点です。その具体的な目標を資質・能力を結びつけて示したのが、上の(1)(2)(3)になります。
 少し専門的な話になりますが、今の日本の学校教育では、とくに次の三つの資質・能力の育成が児童生徒の将来に有用であろうと考え、学習内容が整理・設定されました。その一つが「知識及び技能」で(1)の目標になります。二つ目が「思考力、判断力、表現力等」で(2)の目標になります。三つ目が「学びに向かう力、人間性等」で(3)の目標になります。

 そして、このような芸術科の目標をもとに、書道の目標が以下のように設定されています(同、157ページ)。

 書道の幅広い活動を通して、書に関する見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の文字や書、書の伝統と文化と幅広く関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)書の表現の方法や形式、多様性などについて幅広く理解するとともに、書写能力の向上を図り、書の伝統に基づき、効果的に表現するための基礎的な技能を身に付けるようにする。
(2)書のよさや美しさを感受し、意図に基づいて構想し表現を工夫したり、作品や書の伝統と文化の意味や価値を考え、書の美を味わい捉えたりすることができるようにする。
(3)主体的に書の幅広い活動に取り組み、生涯にわたり書を愛好する心情を育むとともに、感性を高め、書の伝統と文化に親しみ、書を通して心豊かな生活や社会を創造していく態度を養う。

 つまり、高等学校の書道の学びを通して、書道的な見方・考え方により物事を見られる、考えられるようになることが重要で、書道の授業を学んだ生徒が、社会や生活の中にある様々な書の美、文字の美と豊かに関わっていくことを目指すのが書道の目指す方向ということになります。(1)が「知識及び技能」の目標、(2)が「思考力、判断力、表現力等」の目標、(3)が「学びに向かう力、人間性等」の目標になります。
 その目標を達成するための学習手段として、書を書く(臨書する)ことや言葉・文字を書く(創作する)ことと、書を見る(鑑賞する)ことを学習内容の両輪として設定しているのが高等学校の書道になります。したがって、書道の学習というと古典の臨書をする授業だ、と考える人が多いかもしれませんが、書くことは「知識及び技能」の目標達成の手段として、書道という科目全体の学習内容のごく一部として位置付けられているということになります。

 では、高等学校の書道では何を学ぶのかについては、次回で説明したいと思います。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次