文房四宝だいすき帳 vol.9 先寄せ筆と先透き筆

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。

vol.9 先寄せ筆と先透き筆

 今回は以前、羊毛の筆を話題にしたときに取り上げきれなかった、いくつかのことについて。

 まず、先寄せ筆と先透き筆についてご存知でしょうか。一般的な筆は、短い毛や長い毛を混ぜて鋒の部分を組むことで円錐形、紡錘形になっていますが、これに対して、先寄せ筆は、同じ長さの毛のみを組んで先を揃えています。そのため、毛先にボリュームがあり、重厚な線を生み出すことができます。

 先寄せ筆は、昭和の時代に前衛書などの新しい書の世界を切り拓いた書家・上田桑鳩(1899〜1968)の発案によって誕生しました。仿古堂の「暖心」がその筆で、現在も販売されています。

 これに対して、先透き筆は、先の毛を透くことにより筆が開閉しやすくなり、鋭い線が書きやすくなっています。濃墨の作品や近代詩文書の作品などによく使用されています。

左から、仿古堂「暖心」3号、栄豊齋「中鋒 天青」3号、
仿古堂「遠鷗」、一休園「気韻生動」。
いちばん左側の仿古堂「暖心」3号が 13×66mmのサイズ。

 それからまた別の話題ですが、「粗光鋒」(そこうほう)について。羊毛の最優良の毛は「細光鋒」(さいこうほう)、さらに厳選された毛は「細嫩光鋒」(さいどんこうほう)、「細微光鋒」(さいびこうほう)と呼ばれていますが、それらとは違って、山羊のあごの下や喉元、胸元にある細く柔らかい上質の毛を「粗光鋒」といいます。「粗光鋒」の筆は適度な腰と弾力があり、羊毛筆の柔らかさに慣れていない方にとっても書きやすくなっています。

黒軸の粗光鋒の羊毛筆。
いちばん左側(手前)の筆が 18×120mmのサイズ。
細光鋒と細微光鋒の短鋒。
①は細微光鋒の短鋒35×100mm、②は細光鋒の短鋒35×100mm、
③は細微光鋒の短鋒38×110mm、④は細光鋒の短鋒38×110mm、
⑤は細微光鋒の短鋒40×120mm、⑥は細光鋒の短鋒40×120mm。

(協力・写真提供/栄豊齋)

◉商品のお問い合わせ
栄豊齋(電話 03-3258-9088)

◉参考文献
田淵実夫『筆』(ものと人間の文化史30、法政大学出版会、1978年)
『筆墨硯紙事典』(天来書院編、天来書院、2009年)

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次