会期 2025年9月4日〜9日
会場 上野の森美術館 別館ギャラリー

康健一氏は、中国で建築デザイナー、書画アーチスト、骨董・アートのコレクターとして著名な人物である。実業家としても活躍し健壹集団創始者兼会長を務める。中国文化の伝承と普及の貢献により2022年「中国文化伝承使者」の称号を授与され、2024年「中外芸術家専門委員会」の特別委員に選出されている。
今回、康健一氏が日本で個展を開くきっかけは、柳田泰山氏(泰書会代表)との出会いによる。もともと日本には何度も訪れ好印象を抱いていた康氏と、柳田氏との間で、第31回泰書展の併催で個展をするという話がまとまり、ここに康氏の日本初の個展が実現に至ったのである。


作品の全体的な印象は、ミニマルとマキシマム、静と動、拡散と収斂、外と内、カラーとモノクローム等々が渾然一体となって、思索的な奥行きと広がりを感じさせる「康健一世界」が構築されていたように思える。個展のテーマとなった「無界」の仏教的世界観の表出とも言えようか。




一作一面貌の作品を前に、一点一点時間をかけて見入る人が多かった。欧米からの来館者が自分の干支の前で写真を撮ったりして、楽しんでいる様子も見受けられた。
これらの作品は、12月に京都の建仁寺両足院、来年ニューヨークと場所を移して展観される予定である。今展に際して柳田泰山氏よりご寄稿いただいたので、以下に掲載する。

「無界」の世界に生きる、一人の作家 文/柳田泰山(泰書会代表)
康健一氏の「書」に出会った瞬間、私は不意に「未来」を感じた。その理由を明確に説明することはできないが、私の中にある直感が強く反応したのだと思う。私は常日頃から作品と向き合う際に直感を大切にしており、同時に、その背後にある時代背景や文脈も重視する。
過去においては、先人たちの遺した「書」が私に多くの示唆を与えてくれた。現代では、柳田流を中心とした「書」に触れながら自らの姿勢を確かめている。そして未来には、まだこの世に存在していない、新たな「書」のあり方を想像し、模索している。
そのような想いに浸っていた折、偶然出会ったのが康健一氏の作品である。まさに、その書が、私にとっての「未来の書」の片鱗であったのかもしれない。芸術というものは、過去・現在・未来が連続して繋がっていて、それは歴史を紐解けば自ずと明らかになる。康健一氏、そして柳田泰山は、まさにその時代の流れの中核に存在していると感じる。
康氏の作品には、純粋な精神性が宿っており、それが私の心を強く打った。一方で、仏教経典「金剛経」の「書」にも通じる、静謐で深遠な筆意が見受けられた。共通しているのは、技術を超えた精神の境地、すなわち「心境」が表れている点である。「書」における技術は、経験と修練の積み重ねによって培われるが、筆意は書き手の精神の高揚と深まりからしか生まれない。そして、本当に優れた「書」には、その両者が不可欠であり、両立してこそ真の芸術となる。それは同時に、時間との闘いでもある。
このたび、康氏が日本での初の個展を開催されたことは、私にとっても大きな刺激となった。彼の創造の軌跡に触れたことで、私自身もさらに自らの「書」を研ぎ澄ませ、対話を重ねながら、共に「無界」の世界をさまようことを楽しみにしている。