第75回 毎日書道展

100歳にして現役・中野北溟氏の作品(右)と、
その隣(左)に文部科学大臣賞・金子大蔵氏の作品
(国立新美術館)

 第75回毎日書道展の東京展が、7月10日〜8月4日国立新美術館にて開催される(18日〜24日東京都美術館でも展示)。今回は東京展特別展示として「墨魂の群像」展も併催される。これは、毎日書道展を牽引してきた一世代前の書家48名の作品を一覧するもの。毎日書道展は東京展の後、全国9カ所で順次開催される(詳細は毎日書道会ホームページを参照)。

会場風景
(2点とも国立新美術館)

 7月21日、ザ・プリンスパークタワー東京「コンベンションホール」で授賞式が行われ、全国各地から受賞者たちが集まった。表彰式ではまず、第37回毎日書道顕彰の授与式が行われた。啓蒙部門の扶桑印社(代表・遠藤彊氏)と俊英賞の棧敷東煌氏が壇上に上がり、毎日新聞社代表取締役社長・毎日書道会理事長、松木健氏より授与を受けた。
 次に、会員賞33名が松木健氏より一人ずつ賞状と副賞を授与された。
 文部科学大臣の盛山正仁氏が祝辞を述べた後、続いて金子大蔵氏が壇上に上がり、文部科学大臣賞の賞状と副賞を受け取った。その後、毎日賞、秀作賞、佳作賞、U23毎日賞、U23新鋭賞、U23奨励賞が授与された。

毎日書道顕彰の遠藤彊氏(中央)と棧敷東煌氏(右)
会員賞の33名
文部科学大臣賞の金子大蔵氏(右)

 なお、游墨舎ちゃんねるの太田による毎日新聞への寄稿を以下に掲載する。

毎日書道展を見て

太田文子
(「游墨舎ちゃんねる」編集長 )

 毎日書道展は、今回で75回目という節目を迎えた。草創期には、漢字、かな、篆刻の3部門で始まり、次第に時代の趨勢に合わせたジャンルが加わり、現在では、漢字(I類、II類)、かな(I類、II類)、近代詩文書、大字書、篆刻、刻字、前衛書の7つのジャンルで構成されている。なかでも刻字、前衛書部の存在が、毎日書道展の現代性という特長を際立たせているように思う。総出品数は、2万6723点。うち、公募は2万3041点である。

 国立新美術館の会場に入ると、まず「会員賞」の作品が出迎えてくれる。この賞を取れば審査会員になるという大きな節目の賞。グランプリとも称される。それだけに、どの作品にも気迫とエネルギーが満ち満ちている。未来へ向かう活力ともいえるだろう。そこを通り過ぎると、毎日展幹部の部屋となる。ここは顔写真付きだ。幹部作品は、本展出品者の目指す頂の姿である。それぞれキリッと際立つ個性を確立していて安心感を持って見ることができた。
 その中に、中野北溟氏の作品を見つけ、今年も会えたという安堵と喜びでいっぱいになった。100歳にして現役という類いまれな存在で、一生をかけて打ち込むことがあるという幸せを、私たちに教えてくれている。画仙紙の上を、ほとんど掠れた線で「花咲か爺さん」のフレーズが静かに静かに進んでいく。「……ぱらりと灰をまいたらば枯れ木に花が咲きました……」。しんとした白く清浄な景色に、心がすーっと清められていく気がした。
 その隣に、文部科学大臣賞を受賞した金子大蔵氏の作品があった。金子氏は現在50歳で、史上最年少での受賞となる。筆のタッチの強さ、滲みを生む墨量、「せめて藝術を戀ひ慕ふ深き情を持たしめよ」の言葉。中野北溟氏の年齢を思えばあと50年以上活動できる。この若木の健やかに伸びゆくことを、願ってやまない。

 同会場では、東京展特別展示として「墨魂の群像 ──毎日の書48人」も同時に開催されている。昭和後期から平成末期までを区切りとし、現在の毎日書道展を牽引してきた書人たちの書を一望するという企画である。
 本展の後、特別展を見たためか、特に額装作品が比較的小ぶりなサイズのものが多い気がした。そのためか、ゆったりした展示となり落ち着いて見やすかったのだが、時おり大作が交じるとまずそちらに目が向いてしまう。今更ながらに、大きさは存在感を強く打ち出す装置だと思いを致した次第だ。
 はなはだ個人的な印象だが、特別展示の空間はいわゆる「IT革命」の影響下にない世界だということ。そして本年の公募展は「IT革命」進行中の出来事であること。この両者の間の溝ははっきりと感じられた。時間の流れ方が違うのだ。膨大な情報を簡単に処理できる今から振り返れば、前者はもはや古き良き時代なのだろう。現在、さらにAI(人工知能)が日々進化の速度を上げており、2024年が古き良き時代になるのもそう遠くないことかもしれない。

 そんなことを思いながら、時間をかけて見入る作品あり、時に足早になったりで、行きつ戻りつしながら2時間ばかり全体を拝見した。作品数の多さに少々疲労感を覚えたが、何点か斬新な試みも見つけることもできて、満足して休憩のお茶をいただいた。
 暑い最中ではあるが、多くの人に会場に足を運んでいただきたいと思う。伝統的な漢字やかな作品もあり、これも書なの? という前衛作品もある。できるなら、全体を通してご覧になるのをお勧めしたい。7つのジャンルがあり、各ジャンルの中にも様々な指向性を持つ作品がある。それらが一堂に集まり響き合うさまは、一種のカオスと化す。それが現代の書、ひいては現在社会の生の姿なのだから、見ておいて損はないと思うからである。

(毎日新聞 2024年7月18日 東京夕刊)

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