2022 冬の展覧会 ピックアップ 山中翠谷書作展 書に魅せられて

山中翠谷書作展 書に魅せられて
会期 2022年11月22日~27日
会場 東京銀座画廊・美術館

蒼穹(李白の詩)
240×362

 山中翠谷氏は、1950年埼玉県生まれ。大東文化大学卒。現在、独立書人団の中核メンバーであり、毎日書道会、全日本書道連盟、全国書美術振興会などの要職を務めている。本展は、1982年、32歳で行った初個展以来、40年ぶりの2回めの個展である。手島右卿門に入ってから半世紀以上の年月というから、満を持してという言葉がピッタリだろう。
 展示作23点が、山中氏の半生を順になぞる言葉で構成されている。以下、順に、

 「烏涕」(手島門下の学生中心の書の研究グループ名より)
 「楓橋夜泊の一句」(烏⇒右、啼⇒涕〈弟〉、右卿の弟子という意味合いで)
 「路傍の石の一節」(自分の人生を考える切掛となった)
 「親」「罔極の恩」(親への感謝)
 「舊徳」「有朋」「同気連枝」(たくさんの出会い、恩、友、仲間への感謝)
 「大河滔々」(育った近くにある利根川の悠然とした流れへの思い。赴任した埼玉県立春日部高校の校歌の一節でもある)
 そして、
 「順心」「静好」「蒼穹」「百聞不如一見」「多士濟々」「更始」「墨縁」「寛綽」「山川不老」と単純ながらも熟れた深い言葉が続き、
 「不言之教」「能事」「逞」と自身へのエール、世界平和を願って「和心」、締めくくりとして、これからの書活動の「門出」。

 それぞれの言葉の内包する力を視覚的に最大限に解き放つべく、書体や墨色も様々に表現されている。会場では全体的なバランスや視覚的な効果のため、順不同で展示されてはいたが、山中氏の思いはよく伝わってきた。
 サイズは、84×112センチが最小で、縦の最大は240センチ。横は最大577センチにも及ぶ。展覧会場ではそこそこの大作でも大きく感じないものだが、会場正面(入り口から真正面に見える壁面)に据えられた「蒼穹」は240×362センチで、広い会場にあっても迫力満点である。横サイズ最大の「大河滔々」も、ゴオという響きが聞こえてくるよう。筆墨硯紙を扱いこなす力量がこれらの仕事を支えていることがわかる。 
 大作について否定的な意見を持つ向きもあるのだが、個展というのはプロ作家の創造的な仕事を見せる場である。大きさはそのまま存在感となる。大作でしかなし得ない仕事を、本展はうまく見せつけたといえるのではないか。
 書を志して後、師に導かれ、友と切磋琢磨し、書表現を追求し続けた山中氏の半生が集約されたこの展観は、氏のエポックとなるのは間違いないが、私見ながら、「やり尽くした」感というより氏自らが言うように「ここからまた始めるぞ」という余裕を感じた。気さくで歌も上手、人気者の山中氏らしくこれからも人に恵まれ運に恵まれて、何ものかを成し遂げてしまうのではないか、という嬉しい予感がするのである。

(f)

大河滔々
178×577
楓橋夜泊の一句(張継の詩)
183×208
路傍の石の一節
240×356
大作・超大作を中心に、思いのこもった作品23点を展示
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