慶徳紀子展 書に、生かされて
会期 2022年8月3日~8日
会場 日本橋髙島屋S.C. 本館 6階美術画廊
慶徳紀子氏は1941年生まれ、漢字を松井如流、かなを熊谷恒子に学ぶ。熊谷恒子に生涯にわたり師事。現在、毎日書道会参事、日本書道美術院常任顧問、かな書道作家協会理事長、恒香会代表、朱香会主宰。熊谷恒子に勧められ、初個展を開いたのが44歳のとき。以来、6度の個展を経て本展は7度目となる。伝統的なかな表現から、時にはガラリと書風を一変させ、ゴシック体の積み重ねのような「これも、かな?」と驚かせるような挑戦もしてきた。
本展は、出品は30点で、屏風以外は新作。「書に、生かされて」という副題に、一筋に書美を求めてきた慶徳氏の真摯な思いを見る。
書表現すべてに言えることだが、特にかな書においては、品の良さというものが強く求められる。熊谷恒子の所作の一つひとつ、ことばの一つひとつに、ひいては生き方すべてに触れた時間が、慶徳氏の作品に師ゆずりの凛とした品格を与えているように思われる。
軸や額の設えもすべて自分でデザインしたということで、料紙の色味も、表具の質感や裂地の取り合わせも、慶徳氏の鋭い美意識で統一されており緊張感がある。志向としては引き算の美学だろう。余分なものを切り捨てていって、削れないものだけがそこに存在しているという風情だ。シンプルはモダンに通じて、まるで日本の古典文学に令和デザインの衣装をまとわせたよう。
本展は、百貨店の美術画廊という場を得て、今に至る慶徳美学の真髄をサラリと粋に見せつけた濃度の濃い展観であったといえよう。
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