墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。
書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。
大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。
墨に遊び、書作を楽しむとき、なくてはならない文房四宝(筆墨硯紙)。書室のなかでいつも一緒にいてくれて、眺めているだけでもしあわせな気持ち。大好き(だいすき)な文房四宝とその周辺のあれこれについて、気ままに綴っていきます。
vol.7 柔らかい筆から剛い筆まで並べてみた
これまで、馬、羊(山羊)、鼬(イタチ)、山馬、猫などの毛の筆を取り上げてきました。それぞれ、柔らかい、剛(かた)いといった描写を個別にしてきましたが、ここで全体像をつかむために並べてみましょう。
下の写真は、左から右へ、羊(山羊)→猫→鼬→兎→狸(タヌキ)→貉(ムジナ)→馬→山馬、の順番に並んでいます。左から右へ、柔から剛の順番です。つまり、左のほうがより柔らかく、右のほうがより剛い、ということです。もちろん、たとえば同じ馬毛でも体の部位によって剛さが異なり、また兼毫になると配合によって剛さが異なってきますので、目安と考えてください。
ここに並べた8種類のなかで、狸と貉の毛については、これまで取り上げていませんでした。
狸の毛は、白、黄、黒の3種の色があり、総じて弾力に富んでいます。先端は極細で、特に白毛が最良とされています。狸毛筆は、空海が入唐中に製法を学び、帰国後、筆匠に作らせて、嵯峨天皇に献上したことでも知られています。
貉とは、穴熊(アナグマ)のこと。狸と穴熊は似ているので、誤って混同されてしまうこともあるようですが、狸はイヌ科、穴熊はイタチ科の動物。毛質は、穴熊(貉)のほうが、狸より剛毛です。
最後に、兎の毛について。兎毛は、毛先が鋭く、弾力があり、黒色が良質とされています。いま、単純に黒色と書きましたが、厳密には「紫褐黄色」ともいうべきその色合いによって、中国では兎毛のことを「紫毫」ともいい、この連載でも羊毫と紫毫の兼毫筆を取り上げたことがありました。なお、兎の毛は、筆の原毛として古くから文献に見られ、中国では紀元前の戦国時代の楚の国の墓(湖南省長沙市)から、兎の毛の筆が出土しています。
(協力・写真提供/栄豊齋)
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◉参考文献
田淵実夫『筆』(ものと人間の文化史30、法政大学出版会、1978年)
植村和堂『筆・墨・硯・紙』(増補版、理工学社、1987年)