山田正平印
「養神」「羅漢窟」「迂定」「齋藤恒甫(之)印」
昭和時代
文/村尾海心(篆刻家)
前月に引き続き、山田正平(1899~1962)の印を鑑賞していく。
①養神
陶印。中心を空け、比較的左右に配字している。印面にはわずかに凹みがあり、側面には円と花の模様が施されている。陶印特有の押しづらさがあるものの、それがまた面白さでもある。
字形は小篆を基調とする。「養」の下部を折り曲げ、2文字の高さが同じになるよう工夫されている。


②羅漢窟
「窟」には「窋」の字が用いられている。一般的に、修行を終え高い境地に達した聖者である羅漢の像が安置されている洞窟(岩窟)を指す言葉である。
漢印調の作風だが、一本の線の中にも太細の抑揚がある。右列の「羅漢」は画数が多いため、漢印調ならではの真四角の字形としつつ、線が詰まっている箇所は細くしている。左列の「窟」は縦画を長くとり、伸びやかな印象を与える。
側款には「丙寅(1926年)七月」とあり、26歳の頃の作品とうかがえる。


③迂定
落款印のような、私的な印と思われる。
「迂」の右側の辺縁部分を大変太くし、細長の字形との調和を図っている。また、横画は右上がりに処理されているものが多い。
側款に「一止道人」とあることから、30代、40代の頃の作品であると思われる。「宣處」は、鈕を施した刻者によるものだろう。


④齋藤恒甫(之)印
木印の対印。字形を多少変化させ、違った趣を与えている。特に朱文の「印」は上部を大きく伸ばしており、違和感なく6文字であるかのように見せている点も興味深い。


前月に引き続き、山田正平の印について考察してきた。全体を通して、緻密に印稿を練る現代の篆刻とは受ける印象が大きく異なることを再確認できた。
古くは鏨印から続く、計算されていない自然な美しさを鑑賞することができて、大変意義深い体験であった。