木雞室名品《王羲之逍遙》 第1回 神龍本蘭亭序

神龍本蘭亭序(しんりゅうぼんらんていじょ)
353年(東晋・永和9年)
内藤湖南旧蔵

巻頭
王澍が補書した巻末の4行
内藤湖南による跋文
題簽は羅振玉による

 書聖・王羲之の行書の最高傑作とされる『蘭亭序』の原蹟は存在せず、臨模本や刻本が伝来するのみである。
 この『宋拓神龍本』は、明の豊坊刻本とも異なる。この本は、大正2年癸丑の年の京都蘭亭会に出品された。その模様を報じた大阪朝日新聞の大正2年4月20日の記事によると、4種類の『蘭亭序』の名品が紹介されている。その一つは犬養木堂翁所蔵の『宋拓定武本』、もう一つは内藤湖南蔵の『宋拓神龍本』、あとの2件が羅振玉蔵の『宋拓定武游丞相本』と『宋拓開皇本』である。そのうちの内藤湖南蔵本がここに示したものである。
 跋文を見ると所蔵者は久野錦浦とある。惜しいことに、この本は、巻末の4行が旧くに失われ、清朝初期に金石家・王澍により補書されている。拓墨も明以前の旧いものであり、宋拓と称するに相応しい書品を具えている。王澍、李鴻裔、朱福清、趙烈文、呉雲の鑑賞印や題記があり、大正2年に羅振玉、内藤湖南の跋文が付された。
 この帖は大正の蘭亭会の折にコロタイプ折帖装で油谷博文堂から一度だけ出版された。この印刷本すら非常に珍しい。現在は、平凡社の『書道全集』巻4にこの印刷本から転写されている。

(木雞室蔵併記)

大阪朝日新聞の大正2年4月20日の記事
油谷博文堂本の表紙
油谷博文堂本
油谷博文堂本の奥付
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