



雁塔聖教序 清初拓本
唐・永徽4年(653年)
文/伊藤 滋(木雞室)
二十数年ぶりの再会である。この「雁塔聖教序」は、2000年頃に確か上海あたりのオークションに出て、日本に将来され、購入された方から見せていただいた。いい法帖だったので、その時にコピーを取らせていただいた。家蔵データの中に画像があり、確認することが出来た。
褚遂良の名作「雁塔聖教序」は、楷書の法帖として古くから人気があり、流布する原刻拓本は多い。影印法帖としては、現在東博所蔵の高島槐安居旧蔵「雁塔聖教序」が最も有名であろう。他に比田井天来の書学院からの袖珍本「雁塔聖教序」が小さくて、扱いやすい。共に現在でも刊行されている。しかし、前者は、宋拓と表記されているが、二ヶ所ある「治」字の「口」がともに未封のままの明末清初時の拓である。後者は、一般に流布している清朝末の極普通の拓であるが、天来等が書法を学んだ折に、拓本に金泥や朱墨で印を付したことに因んで有名になっている。

(コロタイプ影印本、晩翠軒刊)
現在は二玄社「中国法書選」より刊行

(書学院刊)
現在は天来書院「シリーズ・書の古典」より刊行

「今月号本」が今回の清初拓本
「東博本」は高島槐安居旧蔵本
今回紹介するのは、擦拓のやや淡い拓調であり、字画が鮮明に拓出されている精拓本である。序碑の方は、拓調が淡いが、記碑は、拓調がやや濃いが、同じように精拓である。取拓年代は、記碑にある2つの「治」の字の最終画が刻されておらず、両碑の数カ所の「玄」の字の最終画の点が、破損していない。また序碑の11行目の「對」の「寸」の縦画が細いままで清朝後期には、この縦画が稍太く改刻される。こうした特徴から、明代末期から清朝初期の頃の拓とされる。
近年オークションで時折、「雁塔聖教序」の旧拓本を見かけるが、両「治」や「玄」の字が一見すると古い状態を示しているが、キーポイント部分の拓調や墨色を仔細に調べると填墨や塗墨の痕跡が見られる。昔の偽装した人物は、「對」の「寸」のキーポイント部分を太いままにしてあるので、偽装拓であることを容易に判別することが出来る。久しぶりに再会した「雁塔聖教序」は、なかなか得難い明末清初の精拓である。



◉資料提供/光和書房