今月の名品 vol.32 秦大騩九斤銅権銘拓本

「大騩」と刻された上部
始皇帝の詔書
始皇帝の詔書
冒頭

秦大騩九斤銅権銘拓本
秦時代

文/伊藤 滋(木雞室)

 秦始皇帝時代に度量衡は、統一された。その際、秤の錘(権)や升(量)に国法に由るものであることの詔文が付けられた。それを権量銘と称している。始皇帝の命によるものと二世皇帝によるものとがある。
 図版に示した銘文拓本は、上部がやや狭くなる8角柱型の権(秤の錘)である。上部に「大騩」の文字が刻され、周囲の8側面には、始皇帝の詔書が1面あたり2行、4面に、その後に二世皇帝の詔書が1面に3行、4面に刻されている。共に1行あたり5字である。

《釈文》

廿六年皇帝盡并兼天下
諸侯黔首大安立號爲皇
帝乃詔丞相状綰法度量
則不壹歉疑者皆明壹之

元年制詔丞相斯去疾法度量盡始皇
帝爲之皆有刻辭焉今襲號而刻辭不
稱始皇帝其於久遠也如後嗣爲之者
不稱成功盛德刻此詔故刻左使毋疑

二世皇帝の詔書
二世皇帝の詔書
冒頭

 書体は、小篆体であり、周の時代の篆書とは、大分簡略化され、直線が多用された篆書であるが、隷書の先声を示す文字も見られる。篆書学習の好手本とされている。
 現在この原権は、南京博物院に所蔵されている。これとほぼ同型の「旬邑権」が天津博物館に所蔵されている。重さもほぼ同じであるが、高さ等が僅かに異なる。銘文は両者とも同文であり、書体書風もほぼ同じである。
 ここに示した「大騩権」拓本は、小型の折帖に仕立てられ、上部の全面、次いで側面が、1面ずつ拓されている。更に原件を納める筺に刻された徐康らの題記の拓も収録されている。巻末には、原件を収蔵した清末民国期の大金石家・端方の跋文が、また端方の部下であった金石家・李葆恂の観記も付されている。

筺に刻された題記
上は筐の上部
下は側面8面のうちの最初の2面
端方の跋文

 秦時代の権量銘の伝来するものは、非常に少なく、また偽物が多く、原刻の原拓は、稀である。端方は、碑法帖の大収蔵家であるばかりでなく、金石の原件である青銅器、碑石等も数多く収蔵した。
 最後に示したのは、端方の「評権図」と称される上海図書館所蔵写真である。収蔵の権量を幕僚の臣下と鑑賞した時の記念写真である。周囲には端方自らの題記が、また費念慈の題記も書かれている。左端の椅子にもたれているのが端方であり、右端に団扇を手にしているのが、幕僚の李葆恂とされる。机上には、多くの権銘が置かれている。中央の顔をやや下げた人物の目の前にあるのが、今回示した角柱の権の様に見える。右端の李葆恂の右手が掛けられたのは、現在京都の藤井有隣館に所蔵される有名な石権であろうか。

評権図
(上海博物館蔵)
大騩権
(南京博物館蔵)
旬邑権
(天津博物館蔵)

◉資料提供/光和書房(「秦大騩九斤銅権銘拓本」)

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