今月の名品 vol.29 楊守敬 書幅

楊守敬 書幅
135.0×39.5 cm

楊守敬 書幅
清末民初

 近代日本の書道の発展に大きな影響を及ぼした楊守敬(1839 – 1915)の名は、現在の書壇においても知る人が多い。楊守敬は書誌学や金石学にも通じた清末の学者であり、書法も善くした。明治初期に清国の公使館員として明治13年に来日し、明治17年に帰国した。その間、巌谷一六、日下部鳴鶴等とも交流し、清朝後期の書道金石学を中心とする新しい書法を伝えた。
 ここに示した楊守敬の行書の絹本作品は、明代の詩人・薛瑄の七言絶句を書いている。

人間無処不天公
却笑黄金愧夜中
千載四知臺下過
馬頭猶是起清風
隣蘇老人 楊守敬印

*第2句の愧字は、薛瑄の詩では「饋」字を用いている。

 この書幅の旧蔵者は、戦前から日本の経済界で活躍し、中国書画収蔵家として著名な林熊光(1897-1971、字は朗庵,磊斋、宝宋室等と号した)である。昭和3年(1928)箱書きの紀年から30代初めの題記であろう。表には、楷書で「楊守敬書四知詩真跡」とある。明の薛瑄が、漢代の清廉潔白な官吏・楊震の故事を踏まえた人間としての在るべき姿勢をしめした内容である。
 この幅の楊守敬の行書は、顔真卿的な重厚な筆勢を具えた書風である。また楊守敬は蘇東坡を尊崇して隣蘇と号したので、隣蘇老人と署名している。宋の黄山谷の天下の名跡を収蔵した著名な鑑蔵家・林朗庵題記の楊守敬の行書の優品と言えようか。

林熊光の題記

◉資料提供/光和書房
◉解説/伊藤滋

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