蘭亭図巻 明益王府本
明代後期
書聖・王羲之の蘭亭序は、書の名品として歴代にわたり愛されてきた。蘭亭の地において名士41人とともに開催された修禊、曲水の宴、その場で詠まれた詩等を図巻にした絵巻が伝来したのであろうか、明の万暦年間に制作された拓刷りの長巻の「蘭亭図巻」が伝来する。
ここに示したのは、明の益王府本と称される図巻である。巻頭に拓刷りでなく、肉筆で「蘭亭真蹟」の題字が示され、「益王図書」の印が中央上部に捺されている。王羲之の幻の名筆、蘭亭序が5種続く。「定武本」「定武肥本」「無記名本」「褚遂良本」「唐模賜本」と称せられている。ともに穏やかな書風の蘭亭序である。
続いて、池に面した書院の机にもたれ、料紙を広げて筆を手にし、池の鵞鳥を眺める人物が拓刷りの画面に浮かび上がる。これが、王羲之であろうか。続いて、曲水の宴の情景が描かれ、参加した人物の人名と詩が細字で刻されている。文字部分の拓調は濃く、曲水の流れと人物は淡く拓され、うまく浮かび上がらせている。
曲水の宴の画像が終わると、その後に孫綽の後序、後世の種々の蘭亭文献が続く。まさに蘭亭大観というべき図巻である。
明代以後にも数種の蘭亭図巻が制作されているが、この明益王府本と称される万暦本が蘭亭図巻の優れたものであろう。日本では、江戸時代に長崎貿易を通して多く輸入されたようである。当時は舶来の蘭亭の名品とされたようである。この中の5種の蘭亭序の優れたものが模写され、翻刻されたりして、多くの人の書学手本として愛されてきた。
◉資料提供/光和書房
◉解説/伊藤滋