今月の名品 vol.17 丁佛言 篆書対幅

丁佛言 篆書対幅
252×39cm×2

丁佛言 篆書対幅
中華民国17年(1928)

 今回紹介する作品は、丁佛言(1878~1930)の手になる篆書対聯で、上聯「時事日艱安問宮室車馬衣服」、下聯「遊観自楽乃有山林鳥獣虫魚」です。
 彼は山東省登州の人で、名は世嶧、佛言は字で邁鈍と号しました。幼い頃から聡明で学問好き、書芸にも秀でていました。1904年、済南全省師範学堂(今の山東省師範学校)に通い、1905年に日本に留学。法政大学清国留学生法政速成科(修業年限1年もしくは1年半)を卒業しています。
 1907年に帰国し、山東法政学堂で教鞭を取り、その後は山東省諮議局議員に当選して政治活動を始めます。袁世凱死後、1916年に大統領となった黎元洪より総統府秘書長に任命されますが、半年で辞職。帰郷し古文書学に親しみます。
 この頃から書家・詩人として活躍したと見られ、この作の下聯の右に「戊辰(1928)夏以大篆筆書甲骨文」と書していることや、上聯と下聯との題箋に「還倉室鐘鼎楹聯十二言」と記されていることより、丁佛言自身が所蔵していた甲骨文、鐘鼎文などの拓片を考察研究していたことが考えられます。特に、以前紹介した呉大澂の著作の古文字研究書『説文古籀補』を補うべく1924年(民国13年)に『説文古籀補々』を著したのもその成果の一端ではないでしょうか。
 その視点から改めてこの作を鑑みると、金文の充実した筆法を用い、甲骨文字の正確な筆画を追いながら運筆していることが理解できます。最近の現代書家が同じ素材を用いながら大字で表現した作品とは大きく異なり、文字の神秘性や文字に対する畏怖の念が感じられるものとなっています。

上聯
「時事」
「日艱」
「安問」
「宮室」
「車馬」
「衣服」
下聯
「遊観」
「自楽」
「乃有」
「山林」
「鳥獣」
「虫魚」

◉資料提供/光和書房
◉解説/橋本玉塵(書家・法政大学非常勤講師)

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