副島蒼海 扁額「振衣千仭崗」
明治10年(1877)頃
副島種臣(1828〜1905・文政11年~明治38年)は明治時代の政治家であり、外交等でも大きな力を発揮した。近代日本の書の世界において、日下部鳴鶴、中林梧竹等とともに優れた作品を残している。とりわけ蒼海の書は、魅力的である。作品ごとにそれぞれ趣が異なり、書法の枠にとらわれることなく独特の書法観を具えているのではなかろうか。
ここに示した扁額作品は、とある書店で遭遇した。戦前に装幀された小さな扁額であり、中央には、破れがありひどい状態であった。蒼海のやや壮年の書であると思い求め、重装した。2003年に刊行された『蒼海 副島種臣書』(二玄社)が編輯を終えられた頃に編輯子のもとにこの扁額のことが伝わり、急遽取り上げられた。翌年、『芸術新潮』(通巻649号)に蒼海の書が取り上げられ、この扁額も掲載された。図版解説に「副島の書は総じて重心が高いが、本作はまた危ういまでに腰高である。今回、初めて一般に紹介された傑作」と評されている。
右から左に「振衣千仭崗」(衣を振るう千仭の崗)の五字句である。晋の左思の詠史の其の五の一句であり、「足を濯う萬里の流れ」と続く。左端の署名は、壮年の名である「龍種」、その下に「副島種臣」「火国男子」、右端の関防印は、「龍蔵虎伏」である。
◉資料提供/木雞室
◉解説/伊藤滋