九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)
唐・貞観6年(632)
唐の貞観6年(632)の春、麟游県の深山にある離宮・九成宮へ避暑に出向いた太宗は、偶然にも離宮の西方から旨い泉水が湧き出たところを見つけたという。天からの吉兆と見て碑を立てて記念すべきとして、勅命を奉じて魏徴が文を撰し、欧陽詢が書丹したのが、この九成宮醴泉銘である。
九成宮醴泉銘は虞世南、褚遂良とともに初唐の三大家と称される欧陽詢の代表作であり、全24行、毎行49字、全1109文字で、一点一画の隅々まで周密な用意を施している緻密さと格調の高さから、古くから「楷法の極則」と称されて尊重されてきた。
天下の名品であるが故に、歴代にわたって拓本を求める人があまりにも多く、字口が摩滅して次第に痩せ、一部は彫り広げて太らせるように加刻されたため、原石は当初の面影とはすっかり異なるものとなった。
本品も清末に取られた拓に過ぎないが、碑額から碑側まで一枚の大きな紙に留めた整拓として、清末当時の九成宮醴泉銘の全貌を伝える面から貴重と言っていいだろう。もう一つ留意すべきことは、碑額の両側に押してある「麟游県印」の満漢合壁朱文官印である。当時拓を取る際に、公の許可が必要だったことを表していると考えられる。
資料提供/光和書房
解説/劉斯倫