薦季直表(せんきちょくひょう)
221年(魏・黄初2年)
魏の鍾繇の筆と伝えられる『宣示表』とともに鍾繇楷書の代表作とされる『薦季直表』は鍾繇70歳の書であり、旧臣の関内候季直を推薦する表奏である。碑と異なり、帖により伝えられてきたために信頼性を欠くが、その書は、楷書の古い様式を具えている。文字構成は上部が広く、独特の結構を示す。起筆・終筆、払いなどの筆致も古意を感じさせる。
この帖を刻したものに『淳煕秘閣帖』『真賞斎帖』『鬱岡斎帖』『戯魚堂帖』『翰香館法帖』『三希堂法帖』などがある。とりわけ、明の華夏の刻した真賞斎帖本が最も精刻とされる。
この家蔵本は、さきの5種とは別の旧拓本である。真賞斎帖本に比しても劣ることのない精刻本である。毛筆による点画の抑揚が自然であり、真賞斎帖本や淳煕秘閣帖本とはやや別の筆致を示している。
(木雞室蔵併記)