木雞室名品《游墨春秋》 第19回 礼器碑 落ち穂拾い記①

礼器碑(れいきひ)
156年(後漢・永寿2年)

『礼器碑』選字

 『礼器碑』は、隷書の古典碑帖の第一にあげられる。漢代八分隷書の極則ともいわれる。細く鋭い点画で、端正でありながら横画終筆の波磔や右下方の払いなどは、実に大胆で力強い。縦横の細い直線と抑揚の大きな払いなどの点画の組み合わせは、見るものを釘付けにするような魅力を感じさせる。碑陰は、碑陽に比してやや小振りの趣である。また左右の碑側の書はやや異なり、字形は縦長のものもあり、流麗で軽やかである。各面ともにそれぞれ趣を異にする。
 好く習われてきたので、原刻拓本は戦前から多く輸入されていたようであり、手にする機会は多い。しかしこの碑の旧拓本は、なかなか得難い。ややふるい拓本は、碑陽の9行目の下方にある「聖人不世」の「世」字が破損していない。

「世」字未損

 この稍旧拓の折帖剪装本は割合はやく入手した。しかし『礼器碑』の「旧拓」本は、5行目の「宅廟更作」の「廟」字の月部分の点画がほぼ残る。この部分が第一のキーポイントとされる。この清朝早期の拓とされる旧拓本は、得難い。

「廟」字の比較

 古書店でなく、神保町に店を構えて盛んに中国に出向かれ文房四宝等を輸入されていた栄豊齋の売り立てで、粗末な糸綴じ剪装本の『礼器碑』を見つけた。装丁は粗雑であるが拓調は擦拓の古色のある精拓であるが、所々に全く拓調が異なるやや新しい文字が貼付、剪装されていた。「廟」字の月部分が残る旧拓間違いない本であり、譲り受けた。各種の本と比較検討するも旧拓部分は、擦拓の縦に走る拓墨痕跡が鮮やかで、字画は実に生き生きとしている。

字画が生き生きとした旧拓部分

 前の所蔵者・天津の白澤培の1962年の書き込みによれば、巻頭の「同治壬申秋七月 礼器碑 小晩香館蔵」とある隷書の題記は、小晩香館麐嘉館主(人物不詳)が、同治11年(1872)にやや虫損のある旧拓本を重装した90年前に認めたものであろうと記している。

同治壬申(1872)の隷書の題記
(右下は白澤培の書き込み)

 白澤培がこの旧拓を得て碑陽、碑陰、碑側の釈字を詳細に巻末の別紙に書き残している。そして虫損や破損で失われた空白部分を釈字しながら近拓本を用いて補ったと想像される。しかし、この帖を手にして、繰り返し見ていると、拓調が異なる近拓の補字部分は、目障りで20数字すべて取り除いた。その後、北京の専門店に持ち込み、上下2冊の折帖に仕立て直してもらい、自ら表紙、書帙を作り、『礼器碑』旧拓本として活用している。

近拓の補字部分を取り除いた巻頭の頁
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次