張遷碑(ちょうせんひ)
186年(後漢・中平3年)
後漢末期の隷書碑である。原碑は山東省の泰廟(岱廟)に蔵されている。波磔を具えた八分隷であるが、文字の大きさに比して、字画が太く、また碑面がやや荒れているせいか、雄厚古樸の趣があり、力強さを秘めた魅力ある隷書である。
この拓は、清末民国期のごく普通の近拓本であるが、旧蔵者は近代日本書道の泰斗と称される日下部鳴鶴である。帖中に「東作」(白文)、「八稜硯齋」(朱文)、「快雪珍蔵」(朱文)などの鳴鶴翁の蔵印が鈐されている。
また各頁の欄外の余白には碑文の不鮮明な文字に対する釈字が朱筆で書かれている。その朱書は鳴鶴40代頃の書であろうと想像されている。鳴鶴の古典学習の一面を見ることができる面白い帖である。この帖は、恐らく、楊守敬が将来して鳴鶴などに売り渡した碑帖の一つであろう。
(木雞室蔵併記)