今月の名品 vol.14 石門頌

巻頭
巻頭の「惟」の横画が、その右横の破損から離れていることに注目。
1行目の「故」と「司」の間の様子に注目。「故」「司」は、碑では8行目末。
2行目の「高」の「口」が見えないことに注目。「高」は、碑では終わりから2行目。
題簽

旧淡拓精本
石門頌
後漢・建和2年(148年)

 漢中の「開通褒斜道刻石」と並ぶ隷書摩崖刻石の名品である。「石門頌」は、「開通褒斜道刻石」と同じ地域にありながら、石質が優れているので、刻された文字は、ほぼ完全に残り、これまでに多くの拓本がとられてきた。一見すると波磔のない古隷書かと思われるが、橫画や縦画に波磔など筆勢の抑揚を確認することが出来る。八分隷の摩崖書である。素朴、雄強な趣の書の優品であろう。
 この刻石の旧拓本は、終わりから2行目の「高」字の下の「口」部分が見えないのが、旧拓本とされている。清朝末の拓本では、摩崖面のやや低い部分に刻されていた「口」部分が、剔り出されて完全に拓出され、巻頭の「惟」字とともに旧拓本を鑑別するキーポイントとされている。
 日本では、二玄社の叢刊本、法書選本が刊行されている。共に底本は同じであり、三井聴冰閣旧蔵の善本とされている。趙之謙、張廷済等の鑑蔵を経た善本とされているが、仔細に検討すると拓調は、ここに示した淡拓精本とは異なり、やや填墨や塗墨を確認することが出来る。また「高」「惟」は旧拓の様を示しているが、巧妙に偽装されている。また8行目末の「故司」の2字の間の石面の破損が、旧拓でないことを示している。
 ここに示した淡拓精本は、近年中国で刊行された国家図書館蔵の淡拓旧本と同じ拓調を示している。名家の鑑蔵印等を見る事は出来ないが、優れた拓調の旧拓本である。

旧拓では、「高」の「口」が見えない。
近拓では、「惟」の「隹」の横画の一部が、
その右横の破損とつながっている。
Aは原石(漢中博物館)、Bは近拓、Cは旧拓。
「故」と「司」の間の凹凸の高い部分()が
剥離・脱落・破損して、現在の原石のようになったと考えられる。

*碑法帖存疑9「『石門頌』旧拓本考」(『墨』2011年3・4月号所収)を参照

◉資料提供/光和書房
◉解説/伊藤滋

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