張通妻陶貴墓誌(ちょうつうさいとうきぼし)
597年(隋・開皇17年)
隋代には墓誌銘が数多く残されている。楷書体が成熟していた時代であるが、隷書体で刻されたものも意外と多いのは、古い書体が尊ばれたせいであろうか。『張通妻陶貴墓誌』は、清朝後期に陝西より出土し、程なく原石は失われたと伝えられる。そのせいか、翻刻本が多く、原石拓を見ることは非常に稀である。
この家蔵本は、原刻初拓の精本である。日本で影印し、紹介されたものをこれまで目にしていない。その書風は、新しい楷書体であるが、右払いや転折などに、また字形の結構の取り方に六朝風の余韻を一部残している。同時代の『美人董氏墓誌銘』(同じく原石は早くに佚す)や『太僕卿元公墓誌』『元公夫人姫氏墓誌』(ともに原石は大きく損す)、『蘇孝慈墓誌』『尉富姫墓誌』(原石は佚す)等とともに隋代を代表する書である。
(木雞室蔵併記)