今月の名品 vol.49 高島菊次郎 扁額「真実」

57×160cm

高島菊次郎 扁額「真実」
昭和37年(1962)

 高島菊次郎(1875~1969)、号槐安、守中による書額「真実」である。
 高島菊次郎は、東京高等商業学校(現在の一橋大学)を卒業、三井商船、三井物産を経て、王子製紙に入社、社長を務め、日本の製紙産業の発展に大きく貢献した、近代日本を代表する実業家である。そして書道や中国美術の世界では、高島菊次郎の名前よりも、収蔵印に刻まれた「高島氏槐安居」「槐安居攷蔵金石書画」の印影を見る機会が多いため、「槐安居」という名のほうがよく知られている。特に中国書画や古拓本を研究する人にとって、近代日本を代表する蒐集家の一人とされている。

 彼は50歳頃から本格的に中国の書画・碑拓・法帖・篆刻を蒐集し、また、自らも書や篆刻をたしなみ、生涯を通じて集めたコレクションは「槐安居コレクション」と呼ばれ、質・量ともに日本有数と評価されている。収集した作品を自ら調査、鑑定した上、目録を作成し、また模写し、膨大な量のノートを残している。昭和40年(1965)には、愛蔵していた中国書画・碑拓・法帖など277件を東京国立博物館へ寄贈した。現在も東京国立博物館の中国美術コレクションの重要な柱となっている。書道関連の蔵書7000冊余は大東文化大学に高島蔵書として所蔵されている。
 寄贈しなかった多くの収蔵品は民間へ流伝されてきた。「高島氏槐安居」の印影を目にすることはしばしばあり、例えば銭瘦鉄が刻した「飛鵲田人」印は2017年香港のクリスティーズに出されていた。

 さて、本作は壬寅年、小学館創業40周年とあることから、1962年、槐安居主人 87歳の作品である。東京オリンピックの直前で、高度成長期の真只中。小学館も急成長を迎えていた。両者のつながりの詳細は不明であるが、紙業界大手の王子製紙の代表経験者が、大口顧客の小学館へお祝いとして贈ったものと思われる。

 87歳の揮毫は重厚な運筆でありながら、構成が飄逸しており落款の筆致が流暢だ。書道への造詣の深さが窺える。「真実」という言葉の奥には、激動の時代を諫める意味があるのだろうか。落款の「守中」は氏が愛用した号で、数少ない伝世の作品によく使用している。印款は中国伝統式で右上に「長流人世間」の遊印。左下は度々来日していた中国著名な書画家、篆刻家である銭瘦鉄による「飛鵲田人」と号の「槐安」の2顆が押され、作品全体をまとめ上げている。 

「長流人世間」
「飛鵲田人」
「槐安」

◉資料提供/光和書房
◉解説/呉忠銘(光和書房社長)

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