今月の名品 vol.47 山田正平印

山田正平印
「萬里一篠鐵」「風月隻清」「嬾定」「楽道」
昭和時代

文/村尾海心(篆刻家)

 山田正平(1899~1962)は、昭和を代表する篆刻家である。
 『正氣印譜』『羅漢印譜』などの印譜を遺し、『山田正平作品集』も刊行されている。同作品集には、篆刻をはじめ、水墨画・書・篆額、さらには前述の印譜類が収録されている。
 篆刻においては、呉昌碩の影響を強く受けた作風が見られる。

①萬里一篠鐵
 『山田正平作品集』所収。本語は中国南宋代の『五灯会元』を出典とする禅語である。
 「一」の字を境に画面を分けるような構成に加え、太細の変化に富んだ自然な刻風が特徴的である。
 とりわけ起筆は細く鋭く入り、全体として布字は最小限に抑えられている印象を受ける。材は昌化鶏血石で、保存状態も良く、鑑賞に堪える佳品である。

②風月隻清
 『正平陶磁印譜』所収。杜甫の詩句に由来する禅語である。
 「月」の簡素な造形と他の文字の画数の多さとの対比が印象的であり、陶印特有の素朴な趣が興味深い。

③嬾定
 雅印の可能性が考えられるが、詳細は不明である。
 太細の変化や線の揺れに山田正平らしい刻風がよく表れており、簡潔ながらも引き締まった印象を与える。
 上下二字の画数差を踏まえ、「定」を太く構成することで全体の均衡が図られている。

④楽道
 木印。側面の鎖状の意匠には継ぎ目が見られず、一木から彫り出されたものと考えられる。
 木印でありながら刻風は他作品と共通し、無骨で素朴な趣を持つ。
 揺れのある線が簡潔な字形に変化を与え、篆刻ならではの味わいを生んでいる。

 これらの作品はいずれも、素朴さの中に緻密な構成を内包し、現代へと連なる篆刻表現の基盤を形づくったものといえる。
 篆刻に根ざす者の一員として、その仕事に学びつつ、現代における表現としていかに継承しうるかを、引き続き問い続けていきたい。

◉資料提供/光和書房
◉解説/村尾海心

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