「和の書」つれづれ語り 【松﨑コレクション編】 文/髙橋利郎 第10回 石山切貫之集下

成田山書道美術館学芸員として書にまつわる数多くの企画展を開催してきた髙橋利郎氏が、様々な日本の書をご紹介する連載です。
第一弾として、成田山書道美術館に寄贈され、2018年その全貌が美術館で展示された「松﨑コレクション」より古筆と古写経の名品を12回にわたり取り上げていきます。

※松﨑コレクションに関する内容は第1回【はじめに】と成田山書道美術館の下記サイトをご参照ください。
成田山書道美術館 松﨑コレクション https://www.naritashodo.jp/?p=10232

第10回 石山切貫之集下

 前回は「石山切伊勢集」を紹介した。昭和初期に切断された石山切は、「本願寺本三十六人家集」のうち、「伊勢集」と「貫之集下」である。今回は「石山切貫之集下」について。

 ここに掲載したのは松﨑コレクションの「石山切貫之集下」。深草色の染紙に銀泥で千鳥や紅葉、秋草などを小ぶりに描き、金銀の揉箔を一面に撒いている。『古今和歌集』にも採録される哀傷歌の断簡である。二首目の詞書きには「紀の友則がうせたるによめる」とあって、貫之とともに『古今和歌集』の編纂にあたった紀友則が歿したときに詠んだ歌であることがわかる。

 さて、この断簡を特徴づけるのは、やはりその書きぶりであろう。時に極端な右肩上がりかと思えば、左が上がる文字もあり、縦長・扁平の文字が入り交じって大小の落差も大きい。線は太細の変化に富み、行はいくらか左に流れながら接近していて、隣り合うもの同士、緊張した間を生み出している。多くの平安古筆のなかでもとりわけ表情豊かな断簡といえるだろう。

 20人によって分担揮毫されたと考えられている「本願寺本三十六人家集」も、他の平安古筆と同様に署名は無く、誰が書いたものか正確に突き止めることができない。しかし、この「貫之集下」に関しては、藤原定信(1088~1154~?)の自筆であろうと推定されている。「順集」「中務集」も同筆で、定信の筆とされる。また、「本願寺本三十六人家集」の執筆には、定信の父である藤原定実も参加しており、「人麿集」「貫之集上」を担当している。この豪華な写本は、1112年ころに完成したものと考えられており、定信20代の若書きということになる。

 前回の「伊勢集」が「関戸本古今集」に似たクラシックな書きぶりだったのに対して、この「貫之集下」はそれまでに見たことのない斬新な表現である。定信は熱心な仏徒で、5000巻にもおよぶ経典を23年という年月をかけて一人で書写し終えた。この一筆一切経が独特の書風を形成したのだろう。自在な運筆は祈りの姿でもある。

藤原定信筆 石山切貫之集下
紙本墨書 一幅
平安時代 12世紀

20.0×15.8

◉所蔵/成田山書道美術館

文/髙橋利郎(たかはし・としろう)
大東文化大学教授。成田山書道美術館非常勤学芸員。専門は日本書道史。主な著書に『近代日本における書への眼差し』(思文閣出版)、『江戸の書画―うつすしごと』(生活の友社)などがある。

※松﨑コレクションの全てを収録した展覧会図録『青鳥居清賞─松﨑コレクションの古筆と古写経』(古筆編・古写経編・解説編の3冊組)を、成田山書道美術館にて販売中。
注文方法などの詳細は成田山書道美術館ホームページの「展覧会図録」をご覧ください。
◉成田山書道美術館ホームページ
 https://www.naritashodo.jp/

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