春敬記念書道文庫より、平安古筆の名品をご紹介する連載。
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伝藤原行成筆 十番歌合(松籟切)
紙本墨書 一幅
平安時代 12世紀
承暦元年(1077)、藤原顕季(1055~1123)の家で催された十番の歌合を清書した、もとは巻物の断簡である。本品は十番目の和歌の部分「恋」の歌題で、それぞれ左右一首ずつ書かれている。正式には「讃岐守顕季家歌合」と言われるもの。料紙は白の胡粉地に花唐草文様を雲母刷りした和製の唐紙。
伝称筆者については分割前の巻末の跋文に江戸時代初めの公家日野弘資が藤原行成の筆跡と鑑定していることから伝わる。しかし、この歌合が藤原行成の没後50年に催されたものであることから、明らかに別の筆と言える。書風は世尊寺流の藤原伊房の筆と考えられる「藍紙本万葉集」の系統に属するが、同筆は確認できない。
名称の由来は旧蔵者の三井松籟(高広)の号に因むもの。現在、一から三番が一幅、四、五番で一幅(サンリツ服部美術館蔵)、六、七番が一幅と八番(MOA美術館蔵)、九番(五島美術館蔵)、十番(書芸文化院蔵)が一幅ずつの合計6点に分割されて現存している。書芸文化院蔵のこの一幅は、飯島春敬氏が晩年特に気に入って床に掛けていた逸品である。
◉所蔵/一般社団法人書芸文化院 春敬記念書道文庫
◉解説/飯島太比呂