十七帖 じゅうしちじょう
4世紀 東晋時代
寶煕旧蔵本
『十七帖』は、草書学習の必須古典作品の一である。書聖・王羲之の尺牘29帖を収める。
《館本十七帖》は、大きく2種に分類される。ひとつは、日本では戦前から最も有名な三井本に代表される系統である。全体で29帖、134行、巻末に大字の草書「勅」字、その下に小楷で「付直弘文館臣解无畏勒充館本 臣褚遂良校無失 僧権」とある。伝統的な呼び方に従い「唐模館本」系と称する。
もうひとつは、「欠十七行本」と称される。表題が示すように前者に比して、後半の数カ所の17行分が無いものである。欠けた17行以外はほぼ同じであるが、書風は前者に比して微妙に異なる。「欠十七行本」系の最も有名な拓本は、中村不折旧蔵本(台東区立書道博物館蔵)である。「唐模館本」系の重厚な雰囲気に対して、筆勢が滑らかに表現されている特徴が好まれるのであろう。「欠十七行本」系の刻本としては、不折旧蔵本の単帖本系のほか、明代の『餘清斎帖』や『来禽館法帖』などの集帖にも収録されている。
図版に取り上げたのは、不折旧蔵本と同石拓であり、拓墨はやや軽く、字画が鮮明に拓出された精拓本である。清朝前期の王安昆(字は平圃、止止道人と号す。河間の人、書に工で収蔵に富む)、清末の寶煕(1871〜1942、字は仲明。瑞臣、沈盦、頑山居士などと号す)の逓蔵を経たもので、巻頭・巻末には、共に両人の手になる題簽と跋文が付せられている。
寶煕は題簽や跋文でこの本を「宋拓」とし、また不折旧蔵本も旧蔵者・中村不折自らが、刊行した影印本の題簽に「宋拓」としているが、共に明末清初頃の拓ではなかろうか。所々に見られる帖石の断裂紋から不折旧蔵本と同石拓と考えられる。
(木雞室蔵併記)