伊藤文生氏(書文化研究会)による
新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、
中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、
連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
伊藤文生氏(書文化研究会)による新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
【十】
五代(907~960)
〈094〉
五代奪攘、藝苑亡荒。
五つの王朝が興亡した時代、芸術の世界は荒れ果てた。
〈095〉
僅住凝式、獨恣翺翔。
かろうじて楊凝式がおり、ひとり自在に活躍した。
【十一】
宋代(960~1127・1127~1279)
〈096〉
施至淳化、閣帖成章。
つづいて淳化(990~994)に至り、『閣帖』が作成された。
〈097〉
炅搜宏具、著摸酷詳。
趙炅(=宋の太宗)は(法書を)広く捜索して集め、
王著による模刻は非常に詳しい。
〈098〉
跋顯董逌、史見鄭昂。
『広川書跋』は董逌、『書史』は鄭昂があらわした。
〈099〉
集古竭歐、餘論罄黃。
『集古録』は欧陽脩、『東観餘論』は黄伯思があらわした。
〈100〉
煜造撮襟、緗帙流芳。
李煜は撮襟書をつくり、その書は後世に名声を伝えた。
〈101〉
鉉熟蜾匾、鬢髮戴霜。
徐鉉は(篆書の)蜾匾の法に習熟した、
(それは晩年のことで)白髪になっていた。
〈102〉
襄處相應、態格靡量。
蔡襄は心のままに手が相応ずる境地に至り、
その変化に富む字姿は計り知れない。
〈103〉
芾亂驅驟、痛快弗妨。
米芾は自由奔放であり、その書は痛快きわまりない。
〈104〉
蘇軾洪波、老泉濫觴。
蘇軾の大きな波は、(父の)蘇洵から始まっている。
〈105〉
魯直壞變、瘞鶴鍊剛。
魯直(=黄庭堅)(の草書)は変化を極め、
(その真行書は)瘞鶴銘によって鍛えられたものだ。
〈106〉
競琛既翕、京卞鬩牆。
(兄弟能書のうち)徐競と徐琛とはなかよく、
蔡京と蔡卞とはうちわもめを起こした。
〈107〉
深兮涑水、淨矣滄浪。
涑水先生(=司馬光)は深く、滄浪翁(=蘇舜欽)は清らか。
〈108〉
稚圭謹密、介甫慌忙。
稚圭(=韓琦)は慎重で精密に書き、
介甫(=王安石)は慌ただしい(書きぶり)。
〈109〉
劉傚詢驕、朱慣操傷。
劉共父は欧陽詢をならって得意になり、
朱熹は曹操をならって傷ついた。
〈110〉
霆與瑗忽、富掃糟糠、
趙霆・劉瑗・趙仲忽は、
富裕であるためつまらぬものには目もくれず、
〈111〉
説曁堲讜、飢當糗糧。
呉説と張即之および陳讜(の書)は、
空腹時の干し飯のようなもの。
〈112〉
繆厲貽臭、豈捨此香。
秦檜は悪臭を伝えているが、(その書の)芳香は捨てがたい。
【十二】
元代(1279~1368)
〈113〉
松雪仕讐、而賞諟臧。
松雪道人(=趙孟頫)は
仇敵(元)に仕えたが、書を善くしたことでは賞賛される。
〈114〉
吾洒俗惡、巴補初創。
吾丘衍は(篆籀から)俗悪を洗い流し、
八思巴はパスパ文字を創始した。
〈115〉
巙於遒媚、樞于樣妝、
康里巙巙のつよさうつくしさ、鮮于枢のすがたかたちは、
〈116〉
亞趙承旨、匹鄧南陽。
趙孟頫に次ぎ、鄧文原に匹敵するものである。
【十三】
遼代(916~1125)
〈117〉
隆緒涅隣、遼酋珩璜。
耶律隆緒・耶律涅隣は、遼の皇帝として書にもすぐれた。
【十四】
金代(1115~1234)
〈118〉
竹涯錦溪、金狄珪璋。
竹涯(=党懐英)と錦渓(=張天錫)は、
金代のすぐれた書家を代表する。
【十五】
明代(1368~1616・1644)
〈119〉
明時希哲、赫弄焜煌。
明の希哲(=祝允明)は、あかあかと輝く(ような存在である)。
〈120〉
長洲衡山、兀凌穹蒼。
長洲の衡山(=文徴明)は、大空を越えるほどに高くそびえる。
〈121〉
弇州腕鬼、解嘲眼光。
弇州(=王世貞)の腕には
鬼がいて善く書くことはできなかったが、見る眼は確かだった。
〈122〉
白沙擘窠、致譽帚芒。
白沙(=陳献章)の擘窠の大字は、ほうきで書いて評判となった。
〈123〉
飄肆汝弼、嚴整立綱。
きままな張弼と、厳整な姜立綱とがいた。
〈124〉
履吉巧拙、元宰抑揚。
履吉(=王寵)は巧拙、元宰(=董其昌)は抑揚に特徴がある。
〈125〉
累朝群能、函夏琳琅。
歴代の有能な人材は、中華の珠玉のようだ。
〈126〉
爛粲厥質、美價無彊。
ひかりかがやく天性の、うるわしい価値は無限である。