伊藤文生氏(書文化研究会)による
新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、
中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、
連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
伊藤文生氏(書文化研究会)による新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
【七】
北魏(386~534)
〈064〉
魏汗氈裘、浩妙尚腥。
北魏は異民族で漢民族とは文化が異なり、
崔浩が妙筆を称されたが異臭を感じさせる。
【八】
南朝(420~618)
〈065〉
宋踵江左、紹輩僉馨。
(南朝の)宋は長江の南(に建った東晋)をつぎ、
薄紹之たちが活躍した。
〈066〉
曇首電注、靈運雷轟。
王曇首は稲妻のように現れ、謝霊運は雷鳴のように轟いた。
〈067〉
正祖猶紫、思話彌青。
正祖(=駱簡)は(中間色の)紫のようで、
蕭思話は(正色の)青のようだ。
〈068〉
顏肖嵇調、裴得羊情。
顔竣は嵇康と調子が似通い、裴松之は羊欣の筆意を得た。
〈069〉
欣附獻耀、休法羲鳴。
羊欣は王献之から学んで輝き、
劉休は王羲之を学んで鳴り響いた。
〈070〉
虔布虎爪、賾形落英。
王僧虔は虎爪書をひろめ、
蕭賾は散り落ちる花から新たな書体をつくった。
〈071〉
貶王融誇、角皇衍精。
二王をけなして張融は自慢し、
帝王のなかでは蕭衍がすぐれている。
〈072〉
庾委品題、袁啓訂評。
庾肩吾は『書品』によって詳しく批評し、
袁昂は『古今書評』を(梁の武帝に)呈上した。
〈073〉
繹火敗荊、廣厄沒津。
(二王らの書跡の多くが)
(梁の元帝)蕭繹が放った火によって荊州で焼かれ、
(隋の煬帝)楊広の災厄によって水没した。
〈074〉
十穢威戒、百體勛振。
十穢の書は庾元威が戒め、百体書は謝善勛が始めた。
〈075〉
平去敍約、切韻淑臻。
平上去入の四声の説は沈約から始まり、
『切韻』は劉臻らによってまとめられた。
〈076〉
永營鐵限、鋒倚窓塵。
智永は(能書のゆえに)鉄門限と呼ばれ、
蕭鋒は窓の塵を利用して書を学んだ。
〈077〉
盧蔡倨隋、毛沈播陳。
盧昌衡と蔡君知は隋に、毛喜と沈君理は陳に仕えた。
【九】
唐代(618~907)
〈078〉
刑措貞觀、道盛世民。
貞観の時代は刑罰など不要なほどによく治まり、
(唐の太宗)李世民の政道は隆盛をほこった。
〈079〉
容洎登牀、使褚攢珍。
(太宗は)劉洎が玉座に登ることを容認し、
褚遂良に珍宝を収集させた。
〈080〉
嘗患戈脚、駭藻鑑新。
(太宗は)戈脚(=「戈」の第2画)の書き方に困り、
魏徴の鑑識眼に驚いた。
〈081〉
復臨敵陣、悟翰墨均。
(太宗は)また戦陣において、(戦闘と)書法とが通じることを悟った。
〈082〉
率更險勁、韓域轉輪、
率更(=欧陽詢)のぬきんでた力強さは、朝鮮半島にまで伝わった。
〈083〉
祕監嬋娟、羅綺嬌春。
秘監(=虞世南)の(書の)あでやかな美しさは、
春の日の薄いあやぎぬのようだ。
〈084〉
少溫懿範、踰秦還純。
少温(=李陽氷)の立派な模範(的な篆書)は、
秦の李斯をしのぐほど。
〈085〉
過庭佳則、逼晉絶倫。
孫過庭(が書いた『書譜』)の立派な模範は、
晋(の王羲之)にせまって抜群である。
〈086〉
忠信清臣、護端善眞。
誠実正直な清臣(=顔真卿)は、正義を擁護し真書をよくした。
〈087〉
諫議誠懸、心糾筆匡。
柳公権は、心が正しければ筆も正しくなると言って(穆宗を)いさめた。
〈088〉
浩習惟岳、稷半遂良。
徐浩は徐嶠之に習い、薛稷は褚遂良の半分を得た。
〈089〉
陸循舅敎、通協母望。
陸柬之は舅の虞世南から学び、欧陽通は母の期待に応えた。
〈090〉
從申遠近、北海汪洋。
張従申は遠きも近きも、李邕は広く知られた。
〈091〉
張旭以顚、懷素繼狂。
(草書の名手として)張旭は「顚」と称され、
懐素は「狂」と称された。
〈092〉
薛殘砥柱、徐跨棟梁。
薛純は砥柱銘をのこし、
徐安貞は梁をまたいだ(という故事がある)。
〈093〉
連綿向闡、撥鐙愈彰。
連綿書は呂向が始め、撥鐙法は韓愈が明らかにした。