伊藤文生氏(書文化研究会)による
新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、
中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、
連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
伊藤文生氏(書文化研究会)による新連載「『書史千字文』を読む」が始まります(2024年2月から連載開始)。
江戸時代に陸島立誠なる人物によって書かれた『書史千字文』は、中国書道史を千字文にまとめたもの。
連載では、4字1句からなる原文を2句ずつ読み解いていきますが、連載開始の前に、まずは全体をざっとご紹介。
ウサギの年にちなみ兎も角、読んでみましょう。
【四】
漢代(前206~8・25~220)
〈030〉
蕭何額殿、漢署昉茲。
蕭何が未央宮の額を書いてから、漢の署書がはじまった。
〈031〉
摩騰駄馬、梵字肇移。
迦葉摩騰が馬の背に載せて、梵字が中国に伝えられた。
〈032〉
游製急就、奔逸從宜。
史游が『急就篇』をつくり、漢字が手早く書けるようになった。
〈033〉
邕述飛帛、泥役示奇。
蔡邕が飛白をつくるには、役人が帚で書いた字が奇縁となった。
〈034〉
田蚡盤盂、孔甲孑遺。
田蚡が学んだ『盤盂』は、(黄帝の史である)孔甲の遺著。
〈035〉
曹喜薤葉、務翁箴規。
曹喜が作ったという薤葉書は、仙人の務光の倒薤書を改めたもの。
〈036〉
行狎魁昇、今草最芝。
行狎書は劉徳昇が先駆けであり、今草書は張芝が最上である。
〈037〉
驚座名遵、售酒姓師。
座を驚かせた陳遵、酒を売り上げた師宜官。
〈038〉
崔杜竝騎、暉襲交馳。
崔瑗と杜度、羅暉と趙襲とが並走した。
〈039〉
甄豐改定、許愼部居。
(漢字は)甄豊が改定し、許慎が部立てして整理した。
〈040〉
訓纂楊雄、滂熹孟堅。
『訓纂篇』は楊雄が、『滂熹篇』は班固がまとめた。
〈041〉
一賈序卷、三倉目篇。
賈魴が字書を編集し、「三倉」と称した。
〈042〉
亮瞻蜀傑、象邵呉賢。
諸葛亮・諸葛瞻は蜀の傑物であり、
皇象・賀邵は呉の賢者である。
【五】
三国時代(220~265)
〈043〉
阿瞞寡儔、邯鄲重傳。
阿瞞(=曹操)に匹敵するような人は滅多になく、
邯鄲淳は古文を伝えた。
〈044〉
鵠竊柎進、誕畫榜怕。
梁鵠は(師宜官が字を書いた)板を盗み見て上達し、
韋誕は扁額に書く際に恐ろしい目にあった。
〈045〉
鍾繇特達、雕琢勉旃。
鍾繇が特に上達できたのは、努力の成果。
〈046〉
臥寢穿被、如厠忘歸。
(鍾繇は)寝床に臥しても掛け布団に穴をあけるほど、
厠に行っても帰ることを忘れるほど(習字に励んだ)。
〈047〉
士季敏慧、細微殫研。
士季(=鍾会)はかしこく、
こまかなことまできわめてくわしい。
〈048〉
贋欺勖劍、擬摧艾權。
(鍾会は)贋の手紙を書いて荀勖の宝剣をだまし取り、
文書を書き換えて鄧艾を落とし入れた。
【六】
晋代(265~317・317~420)
〈049〉
炎技峭徤、不慙受禪。
司馬炎の技法は剛健で、いかにも天子らしい書だ。
〈050〉
睿蹤強勇、堪主東遷。
司馬睿の筆跡は強く勇ましく、東晋の君主の書だ。
〈051〉
機掩弘才、預揭家聲。
陸機は文人としての大きな才能におおわれて(書家としての名声は目立たず)、
杜預は一家の名声を高めた。
〈052〉
靖類蠆尾、珉度騮前。
索靖(の書)は蠆の尾のようで、
王珉(の書)は名馬の前を驢馬で通り過ぎるようだ。
〈053〉
侃未雍滯、康任自然。
陶侃は運筆に停滞がなく、嵇康の筆法は自然のまま。
〈054〉
郗伊愔秀、謝尤安鮮。
郗氏では愔がひいでており、謝氏では安がすぐれている。
〈055〉
瓘藁宗朴、恒散專姸。
衛瓘の藁草書は質朴を根本とし、
衛恒の散隷書は妍美を専一とする。
〈056〉
粤有右軍、擅領管城。
ここに右軍すなわち王羲之があらわれ、筆を自在にふるった。
〈057〉
愍姥利扇、好鵝換經。
(王羲之は)老婆をあわれみ扇でもうけさせ、
鵞鳥が好きで『道徳経』と交換した。
〈058〉
幼遇鑠歎、壯服翼爭。
幼いころ衛鑠を嘆かせ、壮年になると庾翼を承服させた。
〈059〉
野鶩誚滅、跳龍喩亨。
「野生の鶩」とする非難は消え、
「おどりあがる龍のよう」と比喩された。
〈060〉
乾坤感我、虛空讚卿。
(王羲之の書は)天地を感動させ、虚空を讃歎させた。
〈061〉
風認樂毅、芬留蘭亭。
(王羲之の書の)風格は楽毅論に認められ、
蘭亭序の評判は今も変わらない。
〈062〉
入室七郞、升堂四兄。
奥義に達した王献之、
それに準ずる四人の兄たち(凝之・操之・徽之・渙之)。
〈063〉
薈廞企閫、濛脩逮閎。
王薈・王廞は(王羲之の)門をのぞみ、
王濛・王脩は(王羲之の)門におよんだ。