木雞室名品《王羲之逍遙》 第5回 潁上本蘭亭序

潁上本蘭亭序(えいじょうぼんらんていじょ)
353年(東晋・永和9年)
李啓巌旧蔵

巻頭
巻末

 明・嘉靖8年、潁上県の村民が地を耕してこの刻石を得たと。また潁上県の井戸の中から発見されたと。よって『潁上本』『井底本』とも称される。この刻石の一面には『蘭亭序』が、もう一面には『黄庭経』が刻されていた。この刻石はその後、壊れて小塊となる。この壊れる以前の完全な原拓は非常に珍しい。昭和蘭亭会に出品され、その図録に朱刷にして載せられている『潁上本』は、後の翻刻である。
 仔細に検討すると、原刻は字画がやや太く、筆勢がのびやかである。この『蘭亭序』はところどころに刻されていない文字があり、その書風は、『定武本』『開皇本』『神龍本』などと異なり、やや後の書風を示している。古来、宋の米芾の臨摸系の作と考えられている。しかし、その書風は澄んだ趣のある静かな筆致を示している。
 図版の『潁上本』は香港の収蔵家・李啓巌旧蔵本であり、以前に香港の書譜出版社から『潁上黄庭蘭亭二種・東陽蘭亭』として刊行され、その中に収められている。清の王澍、王文治、李世倬、費念慈等の跋がある。また王文治の行書の見事な筆致の題簽が付され、封面の楠木にこれがそのまま刻されている。清代名人の逓蔵を経た明拓の佳本といえよう。

(木雞室蔵併記)

王文治の題簽が刻された封面
王文治の題簽
左端に王文治の跋
右端に王澍の跋
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