「和の書」つれづれ語り 【松﨑コレクション編】 文/髙橋利郎 第2回 高野切第二種

成田山書道美術館学芸員として書にまつわる数多くの企画展を開催してきた髙橋利郎氏が、様々な日本の書をご紹介する連載です。
第一弾として、成田山書道美術館に寄贈され、2018年その全貌が美術館で展示された「松﨑コレクション」より古筆と古写経の名品を12回にわたり取り上げていきます。

※松﨑コレクションに関する内容は第1回【はじめに】と成田山書道美術館の下記サイトをご参照ください
成田山書道美術館 松﨑コレクション https://www.naritashodo.jp/?p=10232

第2回 高野切 第二種

 11世紀中ごろの女手は仮名古筆の頂点と言っていい。特に「高野切」に見られる三種類の書きぶりは、いずれもこの時代を代表する書風である。書きぶりによって分類され、高野切第一種、高野切第二種、高野切第三種とそれぞれ称されている。

 「高野切」はもともと巻子装の二十巻本で、今日では巻五、八、二十の三巻が首尾一貫した完本として伝来している。3人による寄合い書で、第一種書風の人物は仮名序、巻一と二十、さらに全体の中ほどにあたる九から十二、第二種書風の人物は巻二から八、第三種の能書は巻十三から十九をそれぞれ担当したのではないかと考えられている。

 ここに掲載したのは第二種書風で、『古今和歌集』巻第三、紀利貞の夏歌を書写した部分。
 3人の書き手のうち、真の筆者がほぼ明らかにされているのは第二種のみ。源兼行は11世紀中ごろに活躍した能書である。貴族社会の能書の役割をおおまかに述べるとすれば、ハレの場における文書や詩歌などの浄書である。なかでも天皇の即位にあたって新調される悠紀主基(ゆきすき)屏風の色紙形の揮毫は、当代随一の能書にしか与えられない重要な仕事である。兼行は後冷泉、後三条、白河の三代にわたってその役割を果たした、この時代を代表する書の名人なのである。

 自筆の書状との比較において、平等院鳳凰堂色紙形や「雲紙本和漢朗詠集」、「桂本万葉集」などがその手になるものと考えられている。

 第二種書風は「高野切」の三種類の書風の中でも最も古風で、藤原佐理や「継色紙」に連なる一時代前の空気を持ち越している。この断簡の「き」「散」「を」などの複雑な筆路などが好例だろう。三種それぞれに魅力があるが、なかでも手練の書としての渋味には、この二種がもっとも優っているようだ。

伝紀貫之筆 高野切 第二種
紙本墨書 一幅
平安時代 11世紀

24.9×5.7

◉所蔵/成田山書道美術館

文/髙橋利郎(たかはし・としろう)
大東文化大学教授。成田山書道美術館非常勤学芸員。専門は日本書道史。主な著書に『近代日本における書への眼差し』(思文閣出版)、『江戸の書画―うつすしごと』(生活の友社)などがある。

※松﨑コレクションの全てを収録した展覧会図録『青鳥居清賞─松﨑コレクションの古筆と古写経』(古筆編・古写経編・解説編の3冊組)を、成田山書道美術館にて販売中。
注文方法などの詳細は成田山書道美術館ホームページの「展覧会図録」をご覧ください。
◉成田山書道美術館ホームページ
 https://www.naritashodo.jp/

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