ブックレビュー 髙橋進著『比田井南谷 ─線の芸術家─』(天来書院)

髙橋進著
『比田井南谷 ─線の芸術家─』
A5判 224頁
天来書院 2024年6月刊
定価=本体2,500円+税

 比田井南谷(1912~1999)は、「現代書道の父」と称される比田井天来の次男として生まれ、芸術的な環境のもと絵画や音楽に親しみ、次第に書道に傾倒し臨書に励むようになった。いわゆる書壇活動から距離を置き、あくまでも一芸術家として書での創造を試み続けた。そうして生まれた「心線作品第一・電のヴァリエーション」(1945年制作・千葉市立美術館蔵)は、文字・言葉を書かない作品であったため、当時「これは書ではない」などと非難されたが、南谷は自身の信念のみに従い、単身アメリカに渡り、現地のアーティストと交流。高い評価を得てMoMA(ニューヨーク近代美術館)やM+美術館(香港)他に作品を買い上げられるまでに至った。

 著者の髙橋進氏は、日本女子体育大学名誉教授(専門は西洋哲学・美学・思想史)で、比田井南谷の長女(元天来書院社長の比田井和子氏)の夫君である。大学を定年後、岳父である南谷を顕彰する比田井南谷オフィシャルサイトを立ち上げようと、長年膨大な資料の整理、検証を行ってきた。その労力が、この一冊となって結実したということだ。

 書影は、あえて帯付きを掲載した。松岡正剛氏の「この字妙、この結体。南谷から始まる瞠目の日本前衛史。」という推薦の言葉を含めて紹介したかったからである。
 書の前衛とは、それが生まれた背景とは、そして比田井南谷が問い続けたものとは。南谷の生涯を、残された膨大な資料・作品とともにたどりながら、その答えを見つけ出していきたいものである。

(f)

◉目次
誕生・子ども時代・青年期 / 心線の生まれるまで―前衛書の誕生 / 書芸術の本質を求めて / 「線の芸術」の誕生/最初の渡米 / 帰国後の活動 / 再渡米―教育者 南谷 / 第三回渡米と世界の瞠目 / 線の芸術家たちとの交流と欧州遠征 / 南谷の成熟と新たな地平 / カリフォルニア大学での古碑帖調査 / 東洋と西洋―過去と未来

◉天来書院 関連ページ

 https://www.shodo.co.jp/books/isbn-352/
 https://www.shodo.co.jp/blog/yume2024/561/

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