疑問を持ちつつ、なんとなくそのままにしていることってありませんか?
游墨舎スタッフの素朴な(おバカな)疑問を、その道のプロフェッショナルの方々にお尋ねしてみました。
いただいた回答をもとにひとつの考え方として示しました。
たいして役には立たないでしょうが、まずはご参考までにどうぞ。
疑問を持ちつつ、なんとなくそのままにしていることってありませんか? 游墨舎スタッフの素朴な(おバカな)疑問を、その道のプロフェッショナルの方々にお尋ねしてみました。いただいた回答をもとにひとつの考え方として示しました。たいして役には立たないでしょうが、まずはご参考までにどうぞ。
お店の方にコリンスキーの小筆が弾力があって良いと勧められて、購入しました。
Q コリンスキーって何ですか?
かな用の筆を買いに行ったら、お店の方にコリンスキーの小筆が弾力があって良いと勧められました。コリンスキーという言葉を初めて聞いたのですが、そもそも何ですか?(20代、書道歴2年)
A
今回、コリンスキーをめぐる事実関係を調べてみましたので、その結果をお知らせいたします。
コリンスキーという言葉の響きを聞くと、チャイコフスキーやドストエフスキーなど、「〜スキー」がついたロシアの人の名前か何かかなと思ってしまいますが、ロシア生まれの筆づくりの名人の名前、というわけではありませんでした。
コリンスキーとは、結論としては、「シベリアイタチ」という種類のイタチのこと。英語では「Siberian weasel」で、ラテン語の学名では「Mustela sibirica」。
急に英語やラテン語の名称にまで触れてしまいましたが、実は、日本の百科事典などを図書館で調べてもコリンスキーのことがはっきりと説明されたくだりを見つけることができず、ひょっとしたら英語の文献のほうが明快なことが書いてあるかもと思い、乏しい英語力ながら『ブリタニカ百科事典』を参照、いや検索してみたのです。すると、イタチ(weasel)の項目に、コリンスキー(kolinsky)がシベリアイタチであること、そして尾毛が筆(画筆 paintbrush)に使われることが、はっきりと書かれているではないですか。
さらに、いわゆる英英辞典でコリンスキーを調べてみると、英語圏での最初の使用は1851年であること、また、「コラ半島(Kola peninsula)の生まれの」というような意味合いのロシア語が語源になっていることまで見えてきました(「〜スキー」とは「〜の生まれの」というような意味だったのです)。
そして、そこまで分かってから、今度はあらためて日本の大型の英和辞典を引いてみると、コリンスキーとは「チョウセンイタチの毛皮」であること、そして、語源にかかわる「Kola」については、「その産地であるロシア北西部の半島および町の名」と記されていました(『新英和大辞典』第6版、研究社、2002年)。
ちなみに、シベリアイタチは、和名としては「タイリクイタチ」「チョウセンイタチ」などともいわれています(そのあたりの情報整理をしっかりしようとすると再び煩雑になりますので、ここでは控えます)。また、コラ半島については、上の通り、ロシア北西部の半島のこと。ぜひ検索して、場所を確認してみてください。
さて、ちょっと長くなってしまいましたが、調べがついた事実関係は、ざっと以上です。コリンスキーの筆とは、シベリアイタチの尾毛を使った筆のこと。シンプルにはそれだけのことですが、しかし、語源をさかのぼると、中国からも遠い、ロシア北西部の地名が出てきて不思議です。まずは西洋の画筆でコリンスキーの尾毛が使用されて、その後、書道の筆でも使われるようになったのでしょうか。おっと、これはたんなる推測(想像)にすぎません。さらなる事実関係が分かったら、またご報告させていただきたいと思います。