未来を見据える目と行動力で、新時代を切り開こうとする50歳世代に焦点を当てた新シリーズ。
インタビューを通して、人生100年時代の折り返し地点にあるかれらの過去、現在、そしてあるべき未来像にエールを送る。
未来を見据える目と行動力で、新時代を切り開こうとする50歳世代に焦点を当てた新シリーズ。インタビューを通して、人生100年時代の折り返し地点にあるかれらの過去、現在、そしてあるべき未来像にエールを送る。
vol.7 今 和希子

文/西村修一(書道ジャーナリスト)
いま目を離したくない若手の書家が創玄書道会に何人もいる。その1人が2026年3月開催の第62回創玄展でグランプリ格の21世紀賞を獲得(2年連続2回目)した今 和希子(こん・わきこ)だ。日展でも昨春、会友に昇格し、さしずめ卵から雛に孵ったところ。やがて書壇で大きく羽ばたくことが期待される。

第61回創玄展 21世紀賞 2025
4.5×3.5尺
今は現在、石飛博光門の博光書道会で詩文書(漢字かな交じり文)を中心に活動している。現代書の柱のひとつといえる詩文書を担う創玄書道会に属し、21世紀賞も日展入選も詩文書であって、筆者には、いつから詩文書一筋の書道人生を歩んできたのかと気になるところだった。

第62回創玄展 21世紀賞 2026
8×2尺
聞けば、「ある部室の戸をガラガラと開けた瞬間に決まった」というのだから、人生のめぐり逢いは面白い。今は青森県は弘前の生まれ。書道が盛んな地で、小学校から中学までは、ごく普通に、何の違和感もなく書道教室で漢字やかなを習っていたという。もちろん、詩文書の何たるかも知らなかった。習字の腕前は「まずまず」だった。地元の県立弘前高校に進んで、文化系のクラブ活動を選ぼうと考えていた折、突然、その時が訪れたという。
書道の担当教師に「書道部にコーヒーでも飲みに来ない」と誘われ、部室を訪ねて戸を開けた時だった。「先生が髪を振り乱し、舞うようにして大きな作品を書いているんです。凄い。見た瞬間、『これだっ』と思いました」。
今の心をわしづかみにした教師の名は鎌田舜英。創玄書道会で漢字をベースに詩文書をよくする精力的な書家である。弘前の地で社中を構え、老若男女に幅広く教えている。弘前高校の書道部でも永年指導していた。今は、ここで詩文書の魅力に取りつかれた。

弘玄展(青森県弘前) 2016
4×3尺
書道部では、基本として漢字の古典臨書などには励んだが、こと作品制作となると、鎌田は自由にさせてくれたという。手本はなく、「書きたいものを書き、仕上がりを見てもらう」という一種の放任主義だった。子供のころ、商店を営んでいた祖父母に育てられる時間が長く、自由ゆえに自ら率先して動くことが好きだった今には、ぴったりの指導者だったようだ。

弘玄展(青森県弘前) 2019
8×2尺

大八木耕一・今和希子書展 2021
150×331cm
詩文書は、俳句、短歌から、近現代の詩、楽曲の歌詞など自詠作を含めて題材は実に幅広い。また、表現するにあたって、筆法、書体、構成などに仕来り、決まりがあるわけではない。それだけに、その呼称も近代詩文書、調和体、漢字かな交じり文など、書道団体によって割れているほどだ。
鎌田のもとで、自由な書生活を送った今は、ひとまず教員免許を取るため、地元の国立弘前大学に進んだ。鎌田が同大書道クラブを指導していたのも一因だった。高校入学以来、都合7年間は鎌田と詩文書の世界を歩んだことになる。この間、鎌田は今の将来を左右する人物を引き合わせくれた。今が大学1年の時、鎌田は青森に定期的に書の指導に来ていた石飛に引き合わせたのだ。
詩文書に打ち込んでいた今は、石飛の席上揮毫を見て、一目で「石飛先生の光る線、柔らかな表現にとても惹かれました」と振り返る。

第73回毎日展 会員賞 2022
2×8尺
この出会いが、今が書家への道を歩む大きなステップとなった。大学卒業後、石飛に師事するために上京。非常勤講師などを続けながら、あこがれの石飛社中の門をたたき、進学していた大学院も中退して、望んで社中の仕事を手伝うようになった。
弘前で培った筆力、明るく朗らかな性格、率先垂範の仕事ぶり。石飛のみならず、社中の先輩、同輩にも認められるのに、そう時間はかからなかった。一方で「心に響く素材を選んで、気持ちを乗せて書く」という熱情こもった制作姿勢で、多士済々の石飛社中の中でもすぐに芽を出し始めた。

第74回毎日展 2023
3.5×4.5尺
20代で毎日書道展に入賞、日展の初入選も果たし、30代前半には書道教室を任されるまでになった。30代の最後となる2021年には、結婚したばかりの伴侶(大八木耕一)とともに大作を中心とした二人展を東京で開いた。時に渇筆を生かした荒々しい作品、時に師風を感じさせる繊細な表現、書くことの喜びを感じさせる作風は書壇の注目を集めた。脂がのってきた2022年の毎日書道展会員賞受賞をはさんで、2024年には自らの社中、希凛会の初めての社中展を東京で開催。勢いのついてきた今が、2年連続で創玄展の21世紀賞に輝くのも、想像に難くないところだった。

第1回希凛会書展 2024
10×8尺(屏風)
今の詩文書の作品作りには、それを哲学と呼んでいいかどうかは別として、いくつかの決まりごとがあるようだ。まずは、自ら気持ちを十分乗せることができる題材を選ぶ。次に、自分なりのリズムで文字を刻み、全体として風景を描くように仕上げていく。そして、失敗しても最後まで続ければ、新しい表現方法にたどり着く可能性もあるという思いから、「勇気をもって失敗しよう」というものだ。この考えは、自らの社中の仲間たちにも、常々伝えており、「書作は楽しく、自由に続けながら、互いに心を豊かにしてゆきたい」ともいう。

弘玄展(青森県弘前) 2024
8×2尺
一方、学生時代、鎌田から「文字を壊す」ことを学んだという今は、いまも自分らしい新しい表現を模索している。前年の21世紀賞で種田山頭火の自由律俳句を選んだのもそうだったが、さらにある種の前衛的な詩文書作品を創作したいという。例えば、郷里の偉大な芸術家である棟方志功を思い浮かべ、これまでの自分を壊しながら、さらに道を究めたいという。

第11回日展 2024
30×360cm(巻子)

その先に、「いつになるかはわからないですが、石飛先生と勝負したいです」とも語る。筆者は、その場面に是非とも立ち会いたいと願うものである。
今 和希子(こん・わきこ)
1982年、青森県弘前市生まれ。鎌田舜英、石飛博光に師事。日展会友、毎日書道展審査会員、創玄書道会一科審査会員、日本詩文書作家協会評議員、希凛会主宰